望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

情報発信と情報収集

  日本の外交は対米追従だと揶揄されたりする。確かに国際舞台で日本が独自の外交を繰り広げ、主役級の外交プレーヤーになった場面を見た記憶はほとんどない。国際問題にはいつも受け身で、何かが起きてから個別に対応するだけという印象。一方で、「歴史問題」などで日本が批判の的になっていても、外務省がこれまで適切に対応していたとも見えない。

 受け身の外交であっても、各国に派遣されている外交官が現地に人脈を広げ、情報をしっかり収集しているというなら頼りがいもあるのだが、現実には、何か起きると他国からの情報提供に頼り、自前の情報収集能力は乏しい様子だ。

 世界の“重心”が欧米にあり、東アジアは平和で緊張度が低く、日本は言葉の壁にも守られて、国際情勢に無関心でも安心して暮らすことができる時代がいつまでも続くなら、日本の外交が弱体でも支障は少ないかもしれないが……世界は多極化へと変わり、対米従属していれば国際舞台で無難に振る舞うことができるという時代は終わった。

 日本の外交を予算案で見ると、戦略的対外発信でやることは、「日本の『正しい姿』の発信(領土保全歴史認識を含む)、日本の多様な魅力の更なる発信(海外の広報文化外交拠点の創設を含む)、親日派知日派の育成、在外公館長・在外公館による発信の更なる強化」という。

 その目的は、「『ジャパン・ハウス』をフルに活用しつつ、従来の取り組みに加えオールジャパンで次の施策を強力に推進。▽領土保全歴史認識等の重要課題について、対外発信を抜本的に強化し、国際社会の正しい理解を獲得▽伝統芸能やクールジャパンを含む日本の多様な魅力を発信( ソフトパワーの抜本的強化)▽親日派知日派を育成し外交環境の改善を推進。「対外発信の最前線」である在外公館の人脈や知見といった『強み』も活かした発信を強化」。

 さらに「日本の『正しい姿』の発信」の事業内容を見ると、▽日本関連の国際世論の分析と対外発信力を抜本的に強化▽国内シンクタンクを抜本的に強化▽女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム▽IT広報の強化(情報通信ネットワーク更新、SNS発信、ウェブサイト多言語化、ODA広報、海外メディア発信強化)▽国際放送の強化。  

「そんなことも今までキチンとやってなかったの?」という印象も受けるが、予算化して人員・機器などを整えてから動き出すのが官僚の世界なのだから、一歩前進ではあるのだろう。一方で、各国における情報収集力の強化については特に打ち出されてはいない。外交官が赴任先の各国で人脈を広げ、独自に情報を収集するのは当たり前だろうから、今さら情報収集力を強化するなんて恥ずかしくて外務省は書けないか。