望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





欧米での外交戦


 韓国が「従軍慰安婦」や「歴史問題」を持ち出して、欧米などで日本批判外交を展開し、それに加担して中国も欧米などで日本批判外交を繰り広げている。現在の韓国や中国の政権が対日関係で有利に立つために行っていることで、やがて両国が日本との関係を改善すれば、異常な対日批判外交は止むだろう。だが、欧米にばらまかれた日本批判のダメージは残る。



 欧米などにおける日本イメージの低下を防ぐことが日本外交の最優先課題になっているが、日本の政治家らが発するのは、靖国参拝など日本異質論を助長するような“火に油を注ぐ”ようなメッセージだったりする。外国から批判されると、真意を理解してもらえれば……などと主観的期待(甘え)が日本側に出てくる。打つ手がないから、説明すれば理解が得られるなどと望みをつなぐしかないのか。



 外交とは、「真意を話せば道が開ける」というようなものではない。むしろ反対だろう。真意や本音を隠して、自国が不利にならず、少しでも有利になるような国際関係を構築するのが本筋だ。だから、外交における“建前”があるとすれば、それに反するような振る舞いは自重して、真意と逆の行動であっても必要なら行い、自国が優位なポジションに立つように持って行くべきなのだ。



 外交の“建前”は時代とともに変わる。帝国主義の時代には軍事力による力の均衡が重視される一方、強国による植民地支配に厳しい目が向けられることはなく、冷戦期には突出した軍事力を有した米ソによる世界分割支配が続き、現代では価値観の共有が大事にされる。その価値観とは、民主主義や人権、自由などの尊重であり、そうした価値観のために戦って勝ったのが連合国側であるというものだ。



 連合国側の国々の“手が汚れて”いないということではない。世界史で見るなら連合国側の国々だって、民主主義や人権などを抑圧してきた歴史がある。が、現在の外交においては、民主主義や人権などの価値観を共有するという姿勢を率先して演じるのが連合国側であり、そうした価値観の共有が外交の“建前”として広がっている。



 韓国や中国が欧米で日本批判外交を展開するのはなぜか。欧米は韓国の輸出企業にとっては大市場であり、日本企業とは競合するから、韓国政府が行う日本イメージのダウンは韓国企業にとっては好都合だろう。国内での人権侵害を欧米から批判される中国にとって、欧米の批判の矛先を日本にも向けさせ、国際的に日本を孤立させつつ、国内世論の矛先を日本に向けることは、共産党独裁政権の延命にも役立ちそうだ。



 当時、存在しなかった韓国も、国民党を倒して成立した共産中国も連合国ではない。それなのに、「連合国史観」に頼って日本批判を繰り広げることができるのは、現在の外交の“建前”である人権尊重などの価値観を共有しているかのように振る舞うからだ。日本は“本音”を漏らしたりせず、話せば分かるなどとの甘い期待を捨て、日本も欧米と価値観を共有しているということを前面に出すことで、韓国や中国の日本批判の効果を“薄める”ことができる。



 韓国や中国の日本批判外交がいつか終了したとしても、欧米での日本イメージにダメージが残りそうだ。だから、現在の韓国や中国による日本批判は、欧米での外交戦だと認識して、受け身で対応するだけではなく日本外交は全力で対処すべきだろう。ただ、それで韓国や中国の日本批判がトーンダウンしたとしても、今回の異常な韓国や中国の日本批判外交によって日本が失ったものは多い。