望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

環境保護というイデオロギー

 16歳の少女がヨットに乗って大西洋を横断して米ニューヨークに到着し、国連の気候サミットに出席するそうだ。この少女は気候変動への積極的な対策を求め、学校を休んでスウェーデン議会の前で座り込みを行って注目を集めた。欧州のリベラルなメディアは少女を環境保護活動家として大きく扱っている。

 ドイツでは環境政党である緑の党が、今年行われた欧州議会選挙や地方議会選挙で躍進している。緑の党エコロジー運動や反原発反核も)など環境保護をテーマに結集した運動体として始まり、平和や女性解放、差別撤廃、多文化主義、社会的な弱者の保護など広範な運動とも連携して活動するようになった。

 緑の党の支持者は若者や高学歴で裕福な人が多いとされ、長く政権を担ってきた2大政党から離れた支持者の受け皿にもなっているという。特に、既存の体制に取り込まれたとも見える既成の社会民主主義政党から離れたリベラルな人々の受け皿に緑の党がなったともいう。

 一般に、リベラルは既存の体制を大きく変えることに抵抗が薄く、保守は既存の体制を大きく変えることに抵抗が強いとされる。そこに経済的な利害やイデオロギーなどが絡むから、単純にリベラルと保守を決めつけることはできず、多くの人はリベラル的な面と保守的な面を持っているのだろうが、リベラル的な発想をする人と保守的な発想をする人に分かれるのは事実だろう。

 環境保護はリベラルだけの主張とは言い切れないだろうが、欧州を見ているとリベラルが環境保護運動の主体になっている。様々な環境保護運動に共通するのは、CO2排出増加による地球温暖化の抑制なのだろうが、既存の経済体制を大きく変えなければCO2排出の大幅削減は困難なので、この主張はリベラルと親和性が高い。

 一方で、自然保護という発想は保守にも抵抗がないはずだが、環境保護運動において保守の影は薄い。経済活動を優先して開発を積極的に進めてきたのは資本の側であり保守と重なる部分が大きいとみられることも、自然保護と保守の親和性を損ねている。

 環境保護の主張が政治的な主張に化した欧州。社会民主主義を支えていたイデオロギー部分が環境保護に変容したと考えるなら、リベラルが環境保護を掲げるのも理解しやすい。環境保護の主張に対する批判を許さず、感情的な激しい反発でリベラルが反応するのも、環境保護の主張がイデオロギーの代替物だと考えると理解できる。