望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

極右と宗教

 極右とは「極端な右翼思想。また、その思想をもつ人や団体」とされるが、右翼思想は国や地域により異なり、日本では、戦前との連続性を持ち天皇崇拝を維持して時には街宣活動を行う団体や人々が右翼とされるが、欧州ではイスラム圏などからの移民を排斥・制限することを主張する団体や人々が極右とされる。

 米国では様々な保守主義があって右翼の定義はぼやける。多くの国からの移民が建国したという歴史があり、移民した人々がそれぞれの母国の伝統などを引き継いだ保守意識を維持する一方、建国の理念以外に共有する価値観が乏しい。かつては反社会主義などを掲げる団体や人々がイデオロギー的要素により右翼とみなされたが、共産諸国の崩壊とともにイデオロギーによって立つ右翼の存在はかすんだ。

 保守主義と右翼の境界線はぼやけている。各国それぞれの伝統的な価値観を引き継ぐのが保守主義で、伝統的な価値観を守るために時には攻撃的にもなるのが世界における右翼とされる団体や人々の共通項と見える。攻撃的な振る舞いは排他性の現れと見え、右翼に対する共感や評価を妨げ、排他性が他からの右翼に対する排他性を招く。

 ガザへの容赦ない侵攻を続けているイスラエルのネタニヤフ氏が首相として2022年12月に組閣した第6次政権は、極右とされる宗教政党との連立だ。直前の総選挙で極右政党が躍進して議席を増やし、イスラエル建国来、最も宗教色が濃い右派政権とされる。イスラエルにおいて右翼や極右はユダヤ教との距離によって判断される。

 連立に加わった極右政党「宗教シオニズム」は、ヨルダン川西岸地区を神からユダヤ人が授かった「約束の土地」として入植地の建設を宗教的な義務とし、ヨルダン川西岸の併合や入植活動の推進を支持し、国内におけるユダヤ人の権利拡大やイスラエル国家に忠誠を誓わないアラブ人の追放なども主張するユダヤ人ファーストの政党だ。パレスチナ人に対する排他性と攻撃性を隠さない。

 他にもユダヤ教宗教政党は連立に参加しているが、「宗教シオニズム」が最も強硬で極右とされる。伝統的な価値観ではなくユダヤ教という宗教に忠実であろうとするのは、イスラエルが世界各国からの人々が集まって建国されたという歴史が影響する。伝統的な価値観が乏しいイスラエルにおいて右翼や極右はユダヤ教の信仰を拠り所とするしかなく、パレスチナの地に人工的に建国され、パレスチナ人やアラブ人の敵意に囲まれた状況で、ユダヤ教に頼って右翼や極右は排他性を強める。

 総選挙で極右を含む宗教政党議席を伸ばしたのは、イスラエル社会で右傾化が進んでいる反映だ。イスラエルの軍や治安部隊とパレスチナ人の衝突などが相次いでいたこともあり、和平推進を訴えてきた左派政党が議席を失うなど、イスラエル社会はパレスチナ人との平和共存に期待しなくなっていた。そこに今回の紛争が起きた。極右の宗教政党パレスチナ人をイスラエルから排除する機会ととらえ、連立政権にも社会にも平和共存を見限った雰囲気があるとすれば、大量殺戮は簡単には止まらないだろう。