望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

植物は日本語が分かる?

 「植物に話しかけると元気に育つ」とか「綺麗だね、ありがとうなどと植物を褒めると、バカなどと貶すよりも育ちが良くなる」などと主張する人がいる。実際の体験から確信を持って言うのだろうが、検証は困難だ。

 そうした主張が事実であるために必要な要素は、第一に、植物に耳があること。人間が発する言葉は空気の振動なので、植物が葉などで振動を感知している可能性はあるが、振動から言葉を理解しているかどうか証明は簡単ではないだろう。ただし、空気の振動で葉が動くと、それが植物を活性化させる可能性はある。

 第二に、人間の言葉を理解する能力が植物にあること。植物に話しかけた言語は、おそらく日本語だろうから、植物に日本語を理解する能力がなければ、そうした主張は成立しない。人間の子供が言語を習得するには年月を要するが、寿命が短い植物に言語を理解する能力があるなら、大発見だろう。

 人が近くから植物に話しかけることで、呼気中のCO2を植物が吸収して活性化すると解説する人がいる。大気中のCO2濃度は0.03%だが、人の呼気には4%程度(運動量により大きく変動する)のCO2を含むから、それが植物を活性化させるという説だ。

 温室などでCO2濃度を高めることで植物を活性化させる農法があるというから、CO2が関係している可能性はある。だが、綺麗だねなどと褒めてもバカと貶しても呼気中のCO2濃度に大差はないだろうから、褒めると植物が活性化するとの主張は矛盾する。それに、呼気に含まれるCO2を植物が即座に吸収し、利用しているのか定かではない。

 植物に優しく話しかける人はおそらく、手入れを怠らないだろう。優しい言葉ではなく、こまめな手入れが植物を活性化させると想像できるが、植物と「心を通わせた」と思いたい人が、自分の言葉で植物が元気になったとか綺麗になったと主張するのかもしれない。

 綺麗だねと話しかけ続けている人には、いつしか植物が綺麗になったように見えるのかもしれない。綺麗になったと見えるのだから、綺麗になったのは事実だと主張する人は、見たいと欲するものを見ているのだ。主観で構築した世界に満足している人はきっと、綺麗だと見たいものを綺麗だと感じるのだろう。