望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

無法者と国家

 無法者というとヤクザや暴力団員、ごろつき、チンピラ、与太者など暴力をちらつかせて好き勝手に振る舞う連中のイメージだが、国家の縛りが緩かった時代には山賊や海賊、盗賊など国家の統制から外れた連中のことでもあった。詐欺師や山師、ペテン師なども法の網をすり抜けて利益を得ようと活動する連中だから無法者といえよう。

 「法や社会秩序を無視する者」「法や社会秩序から外れた者」を無法者とすると、いつの時代にも無法者は存在した。現在も、法の網をすり抜けて利益を得ようとする連中はカタギの人々の中にもいて、政治家や官僚、ビジネスマン、投資家らの中にもいることは、暴かれた数々の経済事件が示している。外見はカタギだが実は無法者という人物は、外見や普段の言動からは見分けがつきにくい。

 活劇映画では無法者が主役となり、豊かな人間性を持つと描かれた無法者が縦横無尽の活躍で暴れ回り、「敵」を次々と倒してヒーロー扱いされることもある。だが、現実世界では、どんなに「いい人間」であっても何をするか分からない無法者がいると周囲は迷惑するだけだろう。ましてや、「いい人間」では全くない無法者が近所に住んでいると周囲は常に警戒心を持っていなければなるまい。

 無法者としての振る舞いを辞さない国家がある。現在ではロシア、中国、北朝鮮などが代表例で、その共通点は①独裁権力、②軍事力に頼る、③厳しい国内統制、④愛国心を鼓舞、⑤外交で威嚇を多用、⑥責任を他国に転化するーなどだ。そうした国家は国際法や国際規範、国際秩序などを時に無視し、自国の利益ばかりを追求し、自国の利益の尊重を他国に要求する。

 人間なら「あっしは裏街道で生きるものでございます」などと無法者であることを認めたりするが、無法者国家は国際法や国際規範、国際秩序から外れたことを認めず、自国に都合がいい場合にはそれらの尊重を主張し、自国に都合が悪い場合にはそれらを無視して一方的に独自の主張を繰り返す。国際法や国際規範、国際秩序には縛られないが、利用できるときには利用する。

 無法者国家は、カタギを装う無法者だ。カタギと無法者を使い分けながら常に自国の主張を通そうとする。国際社会から締め出されることに強く反発するが、国際法や国際規範、国際秩序の維持などには無関心だ。国際法や国際規範、国際秩序などが建前にすぎないとすれば、常に自国の利益を最優先に動く無法者国家の姿は国家の本質に忠実なのかもしれない。

 カタギと無法者を使い分けるのは欧米諸国も基本的に同じだ。異なるのは、無法者として行動する時にも欧米諸国は民主主義や人権や自由などで飾り立て、国際法や国際規範、国際秩序などをあからさまに無視しないことだ。してみると、国家の多くは「カタギを装う無法者」との定義も成り立ちそうだ。国際法や国際規範、国際秩序などを自国に都合よく使い、時には無視する外交をこなせない国家は他国に遅れをとるばかりか。