望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

残り続けるデータ

 日本のキャッシュレス決済比率は年々増加しており、2022年には36.0%(111兆円)となった。内訳はクレジットカードが30.4%(93.8兆円)、デビットカードが1.0%(3.2兆円)、電子マネーが2.0%(6.1兆円)、QRコード決済が2.6%(7.9兆円)という(経産省まとめ)。キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にするという経産省の目標はほぼ達成できそうだ。

 キャッシュレス推進の社会的意義を経産省は、「決済を変革することで、現金決済に係るインフラコストの削減や業務効率化・人出不足対応等の既存の課題を解決し、データ連携・デジタル化や多様な消費スタイルの創造」に寄与するとし、キャッシュレスによって「支払に特別な意識を払わずとも行える決済が広がり、データがシームレスに連携されるデジタル社会」を目指すという。

 先進国の中ではキャッシュレス決済比率が低いとされる日本だが、量販店に加え飲食店や小売店でもキャッシュレス決済が珍しくなくなり、現金を使わずに支払いができる簡便性を実感した人々は増え、それらの人々はもう現金決済には戻らないだろうから、日本のキャッシュレス決済比率が高まることがあっても低下することはなさそうだ(どこかで頭打ちはあるかもしれない)。 

 現金での支払い決済は店頭で現金を相手に渡した時点で完了する。顔見知りでもなければ売買相手の名前も知らないだろう。だが、キャッシュレス決済は店頭での手続きが終了した後にもデータが記録されている。そのデータを見ることができるのは金融機関だが、マネロン対策など必要があれば政府がデータの提出を求める可能性はある。おそらく中国などの強権国家では政府が個人データを自由に見ているだろう。

 日本国際博覧会協会は大阪万博でキャッシュレス決済を本格導入すると発表した。会場内の売店やレストランなどの施設ではクレジットカードや交通系ICカードQRコードなどによるキャッシュレス決済とし、プリペイドカードの販売などでサポートするほか、スマホによる「デジタルウォレット」も導入する。入場券も電子チケットとなり、前売券(6000円。通常の1日券は7500円)は11月末に販売開始予定。なお入場には来場日時予約が必要。

 大阪万博の会期は2025年4月13日~2025年10月13日。管轄する経産省は日本館を出店するが、万博会場でのキャッシュレス決済の全面導入は経産省の意向が反映したものだろう。1970年の大阪万博では総入場者数が6421万人と当初の目標の3000万人の2倍以上に達したことから今回も多数の来場を期待して、一気にキャッシュレス決済を普及させようと目論んでいる気配だ。

 インターネット網が社会を覆い、データの迅速なやり取りが日常化してキャッシュレス決済が一般化する基盤は構築された。一方で、データを見ることで権力が人々の行動を追跡・管理したり、キャッシュレス決済網から排除することで人々を抑圧することも可能になる。キャッシュレス決済については利便性ばかりが語られることが多いが、キャッシュレス決済の普及とともに、そのデータ保護・保全について議論が高まろう。