望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

法は修正できる

 2022年の通常国会では、政府が提出した法案61本が全て成立し、これは26年ぶりだという。過去には、与野党が鋭く対決する法案が国会に提出され、新聞などマスメディアや世論を巻き込んで賛否の議論が活発化することが珍しくなかったが、この通常国会で野党側は与野党対決法案を仕立てることができず、政府・与党に主導権を取られた。

 与野党対決法案の典型は、国家による管理を強化したり増税したり自衛隊の行動範囲の制限を減らしたりする法案だ。野党やマスメディアは「民主主義の危機だ」とか「戦争に巻き込まれる」などと危機感を煽るが、法案が成立すると野党やマスメディアの反対論は急速に衰え、やがて消えてしまう。

 そうした与野党対決法案によって本当に「民主主義の危機」が生じたり、「戦争に巻き込まれる」ことが起きるのなら、そうした法は放置できないから、翌年の国会で修正すべきだろう。しかし、翌年の国会で野党が修正法案を提出したり法の廃止や改正に動くことはない(国会は、すでに成立した法を修正したり廃止することができる)。

 そこから、野党が煽る「民主主義の危機だ」とか「戦争に巻き込まれる」などの危機感は①一時的なものだった、②本心からの主張ではなかったーが、採決では負けるので危機感を煽って世論頼みの「場外戦」を仕掛けたと見えてくる。党議拘束が厳しい日本の国会では、どんなに熱心な議論が行われようと採決に影響を与えることがないのだから、議論の質が低下し、相手を説得しようとする言葉は姿を消し、一方的な主張をぶつけ合うだけの議会になる。

 野党が国会のたびに与野党対決法案などで危機感を煽るのは、野党が無力であるからだ。自民党が政権を担う状況が長期化し、野党の議席数は過半数に遠く届かない状況も常態化し、野党にできることは少ない。それが野党の無力さを際立たせる。無力であるから野党は目立つために政府批判のメッセージ発信に熱心になるが、独自にネタを発掘する能力は低いので、政府が提出した法案の中から与野党対決法案を仕立てて危機感を煽ることにすがる。

 危機感を煽る野党は、国会では過半数に遠く及ばない存在であるため、与野党対決法案の成立を阻止することができず、その法案の修正や廃止を行う法案を翌年の国会に提出しても、修正や廃止は多数を占める与党に阻まれて実現しないことを承知している。無力であることを野党は自覚しているから、成立阻止を掲げて危機感を煽って存在をアピールするが、世間の関心が冷めた頃に、修正や廃止などに向けての「無駄」な努力は行わない。

 こうした状況は野党が政治的パフォーマンスで動くとともに現状追認に流されていることを示す。「民主主義の危機だ」とか「戦争に巻き込まれる」などの言葉は広告コピーに似た軽いもので、野党も本気でそう考えていないのじゃないかとの疑いを招いている。本気で「民主主義の危機だ」とか「戦争に巻き込まれる」と危機感を持っているなら、与野党対決法案を成立したままにはしておけないはずだ。