望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

知らんけど

 「知らんけど」は、何かについて語った人が最後に、真偽には責任が持てないよーと身をかわすように付け加える言葉だ。大阪などから広まったというが、いつか全国でも頻繁に使われるようになり、さらにはニュース番組でも使われるようになったなら、将来予測に類するニュースでキャスターやアナウンサーはカメラから目線を外して、「知らんけど」と付け加えるかな。

 例えば、ロシアがウクライナで23年の早い時期に新たな攻勢を仕掛けるとし、2月か3月か、早ければ1月にも大規模なロシアの攻勢が始まるおそれがあり、ロシア軍が20万人程度の部隊の投入を準備しているとのウクライナ側が発信した情報を伝えたニュースでキャスターやアナウンサーは、ロシア軍の大規模な攻撃に対抗するためにウクライナは欧米各国に砲弾の提供を求めているらしいとしたが、最後に「知らんけど」とつぶやく。

 国連機関は、各国の排出削減計画を積み上げても30年の排出は10年比で10.6%増えるとし、気温上昇を1.5度に抑えるなら45%減、2度なら25%減とする「パリ協定」の目標の達成が難しいとした。ウクライナ危機で天然ガスや石炭など化石燃料への回帰が起き、各国が目標通り温暖化ガスの排出を抑えても、30年の世界の排出量は52.4ギガトンと10年比で10.6%増えるらしいと説明したニュースの最後に、「知らんけど」と付け加える。

 中国政府はゼロコロナ政策を急に撤廃したが、都市以外にも全国で感染拡大が生じているという。撤廃以前から感染拡大が起きていて、それが表面化しただけだとの見方もあるが、労働者間の感染拡大で製造業など企業活動への影響が大きく、感染拡大が続くなら中国で人口14億人強の6割が感染する可能性があるらしいとし、人々は解熱剤や鎮痛薬や抗原検査キットの購入に懸命だと報じた後に、「知らんけど」と述べる。

 マイナンバーカードと一体化した保険証を利用するには、医療機関が新たなシステムを23年3月末までに導入する必要があるが、必要なシステムを導入していない医療機関が約6割もあって、厚労省は期限を延長するという。一方で厚労省は、マイナンバー保険証が使える医療機関で、従来の保険証を使う患者の負担を引き上げるらしいと伝えた後で、「知らんけど」と付け加える。

 天気予報でも、「明日の東京は雨になるらしいです、知らんけど」とか「再び冬型の気圧配置が強まり、北日本から西日本の日本海側を中心に大荒れの天気となる恐れがあるようです、知らんけど」とか、台風の進路予測などを説明した最後にお天気キャスターは「知らんけど」と小さくつぶやく。健康食品のテレビやネットのCMでは、「個人の感想です」と小さく書いてあるのに続けて、もっと小さな字で「知らんけど」と表示する。

 「知らんけど」は政界でも頻繁に使われるようになり、例えば、国家予算が年々膨張する日本で、税収増加の裏付けはなくても「国債を増発すればいい」の繰り返しが続くが、無理やり抑え続けてきた長期金利が上がれば、途端に借金で首が回らなくなる。政治家や高級官僚らは、心の中で「知らんけど」と呟き続けている。