望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

北朝鮮が大好き?

 こんなコラムを2003年に書いていました。

 急に日本人が北朝鮮を大好きになった理由は何だろう? 本屋では北朝鮮本のコーナーが広がり、TVのニュースショーでは必ず北朝鮮絡みの話題が取り上げられ、一般紙も北朝鮮ネタは欠かさない。

 小泉首相が訪朝する前は、何かヤバそうな国というイメージでマスコミは及び腰の扱いだったが、拉致問題があり、日本は“晴れて”被害者側になることができたので、遠慮せずに批判的に取り上げることができるようになった。そこには朝銀の破綻問題と総連への立ち入り調査もあって、執拗な直接的抗議をさほど気にせずともよくなったという事情もある。つまり、マスコミにとって北朝鮮は、叩けば面倒なリアクションのある対象から、叩けば視聴率がとれる対象に変化した。

 そうなると北朝鮮は“いじり甲斐”があって、偉大な将軍さまなるキャラクターやそれを讚える周囲、彼の地のTVニュースなどが日本から見ていると何やら寸劇めいて見え、笑えるってところか。日本人全体が拉致被害者ででもあるかのように、道義的優越感に浸って安心して北朝鮮バッシングをしている気配も漂う。デフレ不況に喘ぐ日本から見て、経済が破綻している北朝鮮は格好な憂さばらしの対象となった。

 しかしね、一連の北朝鮮報道を見ていても、彼の地で以前に200万とも300万とも言われる人間が餓死したという悲惨さ、痛みを感じる気分はどこかに置き去られている。また、核の有無はさておくとしても通常兵器だけでも相当の戦力を保持している隣国があるという“今そこにある”危うさも語られない。

 欧米に肩を並べる経済大国という誇りが薄れ、急成長する中国の陰に隠れつつある日本で、唯一、北朝鮮が優越感を感じる対象として位置づけられているとしたなら、北朝鮮の抑圧されている人々には勿論、日本人にとっても実りが無いといえる北朝鮮ブームである。