望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

強制と自由

 経済活動をパンデミック前の状況に戻そうと、ワクチンの接種済みの人々に限定して飲食店や商業施設への出入りを自由にしたり、ライブイベントなどの参加を上限なしに認める「ワクチンパスポート」導入の動きが広まっている。だが、欧州諸国などでは、ワクチンパスポート携帯の義務化は個人の自由を国家が制約するものだとして反対の動きが顕在化している。

 フランスでは抗議デモが夏から毎週続き、ワクチンパスポートの携行強制は「移動の自由」の侵害だと反対している。参加者の政党色は薄く、デモでは三色旗が振られ、個人の自由をアピールしていると報じられた。イタリアではワクチン接種のデジタル証明書「グリーンパス」に反対するデモがあり、ベルギーのブリュッセルではEU域内での「グリーンパス」の強制導入に反対する人々の一部が暴徒化した。

 ワクチンパスポートの強制導入に反対する人々は、ワクチンパスポートが人々の移動の自由を侵害するとともに、ワクチン未接種者に対する差別的扱いを正当化し、さらにワクチン接種の義務化を強制するなどとして抗う。ワクチン接種を拒否している人々は各国に存在するので、ワクチン接種の義務化はワクチンの未接種者をあぶり出す。

 欧米などで新型コロナウイルスの感染拡大の勢いは衰えていないが、重傷者や死者は減少し、それはワクチンの接種拡大による効果だと説明される。ワクチン接種率が70%以上と高い国が多いのでワクチン接種を多くの人々が受け入れた。だが、国の指示に従った人々もいるだろうが、パンデミックに対応しようとの社会的な要請ととらえた人々も多かったような気もする。

 抗議行動には、ワクチン接種そのものに反対する人々に加え、国家による束縛を嫌い個人の自由の尊重を求めたり、未接種者の差別的な扱いに怒り、ワクチン接種の強制に抗議する人々が加わっているようだ。国家の要請よりも個人の自由を重視するのは健全な民主主義的な感覚であろうが、パンデミック対策を国家権力の問題に限定しているとの疑問も生じる。

 さらに、個人の自由を重視し、国家による強制を嫌う人々がワクチンパスポートには反対するが、例えば、内燃機関の自動車を禁止してEVに強制的に移行させるとの欧州各国の政策に、選択は個人の自由だと抗議し、反対する動きはないようだ。ワクチンパスポートに反対する人々の大半は地球温暖化論に従順に従っているのかな。

 ワクチンパスポートは経済対策であり、大半の人々はワクチン接種済みであるので素直に受け入れた。だが、ワクチンパスポートが人々の管理の道具になることは確かで、電子的なワクチンパスポートなら人々の動きを常時把握できよう。国家による束縛や強制を嫌う人々が敏感に反応するのは当然か。