望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり




外国での評価

 世界各地で高く評価されている日本の技術、商品などを紹介する企画はTVでは珍しくないし、そうした趣向の番組もある。そうした技術、商品に関わる職人や企業に縁がない人でも、「ほ~、すごいものだ」と楽しんで見ているのだろうから、その種の企画が成立するのだろう。誰も傷つけない企画なのだから、TV局にとっても無難だ。



 バブル崩壊後は低迷が続く経済に落胆している人々が、そうした番組を見て「日本もまだ捨てたもんじゃないな」と思い、鼓舞されるのかもしれない。だが、外国からの高い評価を探し出して、やっと日本の技術や商品に自信を持つことができるといった構図にも見え、寂しい光景でもある。



 冷静に考えれば、例えばトヨタ車がアメリカで、欧州で、アジアで、アフリカで、南米で……と世界各地で評価されていたとしても、トヨタに関わりがない大多数の日本人にとっては、どうでもいいことだ。だが、実際にはトヨタ車には日本発のイメージを付与して見る日本人がいる。世界で売られる多くのトヨタ車が現地生産であるにしてもだ。



 ただ、その種の番組では“マイナー”な技術、商品が取り上げられるのでトヨタ車は出て来ない。トヨタ車となると、視聴者の中には距離を感じ、簡単には感情移入しづらい人がいるのかもしれないので、大企業ではなく中小企業の技術、商品に光があてられる。特に職人に焦点を当てると、地味だけど頑張っているんだぞというイメージを喚起しやすいのだろう。



 経済番組ではないTV番組で大企業を取り上げるにはいろいろと制約があろうし、最近では業績不振の大企業も珍しくないので、なおさら取り上げにくいのかもしれない。中小企業や職人なら、ほそぼそとした海外進出ではあっても高く評価されているとなれば、賞賛するストーリーに仕立てやすい。



 その種の番組では和紙が、欧米で古い絵画の修復に欠かせないものとして使われていると紹介されたりする。和紙の素晴らしさが再認識されるのはいいのだが、日本国内でも生産国に関係なく、いい技術・商品が使用されていることを考えれば、ことさら大々的に取り上げるべきことでもない。だが、和紙という存在に思い込みをする。たとえ自分が和紙と縁遠い生活をしていたとしても。



 世界各地で評価されている日本の技術・商品は素晴しいものだろうが、海外には出していない国内だけで評価されている技術・商品や、品質は高いが、海外にも同レベルのものがあり、結果的に日本国内にとどまっているものもあろう。しかし、番組で取り上げられることはない。国内での評価より、国外での評価の方が価値あるのだろうか。



 そこから見えて来るのは、他者(他国人)からの評価をありがたがる習性であり、誉められたいと願っている心理の現れかもしれない。乱暴にいえば、日本人が自己評価を低く見せ、謙遜して控えめにしながら、内心ではプライドを高く持ち、プライドをくすぐってくれるものを欲している現れのようにも見える。