犬食といえば代表格は韓国。1988年のソウル五輪などでは欧米から批判が高まり、犬肉料理店は裏通りに引っ込んだり料理名も変えたりして“カモフラージュ”しつつ、犬食は続いているそうだ。欧米からの批判があると韓国側は、犬食は民族固有の食文化だとか、食文化の違いを尊重すべきだなどと反論する。おや、この反論の文言はどこかで聞いたことがあるような。
中国でも犬食は健在だ。広西チワン族自治区玉林市で毎年開催される「犬肉祭り(狗肉節)」では約1万頭の犬が食べられていると英紙が2014年に報じたが、揚子江以南では犬食は珍しいものではないようだ。「羊頭狗肉」という言葉は中国発だ。犬食はアジア各地にも残っているという。
犬食を欧米は批判するが、スイスの一部に残っているそうだし、以前はフランス、ドイツなど大陸側の欧州では犬食があったそうだ。ちなみにスイスや北イタリアには猫食も残っているそうで、食の世界は奥深い(アジアに向けて欧米は「犬を食べるな」「クジラを食べるな」などと大騒ぎするのにね)。
食の世界は奥深いが、保守的でもある。それまで食べてこなかった食材、調理法などを受け入れるには抵抗が大きい(魚の生食であるスシを欧米が受け入れるにも長い時間を要した)。欧州では、牛肉を使用したはずの食品に実は馬肉が混入していたことが発覚し、馬肉を食べない英で大騒ぎになったが、大陸欧州では馬肉を食べる国は珍しくない。
犬や猫を食べることに嫌悪感を持つ人がいるのは、犬や猫がペットでもあるからだろう。でも、ペットでも飼われるウサギは広く食べられてきたし、「平和の象徴」ハトもフランスや地中海周辺、中近東などではフツーに食されている。ある動物を可愛いなどと愛でることは文化の影響が大きく、ある動物を食べる対象にすることも文化の影響が大きい。それで、食の“タブー”を国際化することは困難だろうから、押し付けることになる。
食文化の差といえば、昆虫食もそうだ。バッタやセミ、ハチなどの成虫や幼虫が世界各地で食べられてきたし、今も食べられているが、こちらには欧州などからの批判の声は出ない。反対に、高タンパクでビタミン豊富な栄養面で優れる食糧源として国連食糧農業機関が「未来の資源」と推奨するなど、世界の人口爆発に対応する手段の一つとして注目されている。虫を愛でる文化が欧米には希薄だったから、昆虫食は欧米に無視されたのかもしれない。