望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

多次元世界

 物質とは何かを人間は考え、探ってきた。そして原子の存在を知り、さらに原子は陽子や中性子、電子でできているが、それらは更に小さな素粒子でできていると知った。素粒子は粒子と波の双方の性質を併せ持つもので、大きさを持たない「点」のようなものと考えられてきたが、長さがあるが幅も質量もない「弦」のようなものとの考えが有力になってきた。

 物質とは何かを考えて行き着いたのが、素粒子の世界では、大きさのない「点」であったり、幅のない「弦」であったりする理論。実在するのが物質だと考えていたのに、探っていくほどに実在が揺らぐ。人間も物質であるが、ミクロの世界では実在が揺らいでいるのだとすれば、人間の存在も素粒子レベルでは実在すると断言できないのかもしれない。

 日常生活では物質の実在は確かなものと感じられるのに、素粒子の世界になると実在が揺らぐ。そんな理論が許容されるのは、物質とエネルギーは等価で変換可能であるからか(E=mc²)。ミクロの世界ではエネルギーと質量は変換を繰り返す流動的な状態にあり、混在しているのかもしれない。

 素粒子が弦のようなものと考える理論では、弦は凄まじい勢いで振動し、その振動の状態によって物理的性質が異なり、様々な素粒子になるのだという。物質の根源は振動(エネルギー)だとの考えは、素人には不思議だが興味深くもある。人間も無数の弦の振動により形成されているのだとすれば、実在という概念自体が変容を迫られる。

 さらに弦の振動の状況は多様で、3次元では説明できず、9次元の空間を弦は自由に振動しているという。この世界は3次元で縦・横・高さの方向で空間が構成され、そこに時間が空間の構成要素として加わったのが4次元とされるが、5次元がどのような空間なのか定かではなく、9次元がどのような構成要素で成り立つ空間なのかも不明だ。

 4次元を構成する時間は、この世界で認識できる。5次元以上の多次元世界も、この世界で認識できる要素を空間の構成要素にしていると仮定するなら、例えば、エネルギーを空間の構成要素に加えた世界を5次元と想像できる。3次元における実在は空間を質量が占めることだが、5次元での実在とは、物質であってもエネルギーであっても形態を問わないだろう。

 この世界には重力・電磁気力・強い力・弱い力の4種類の力があるといい、力を伝える粒子(素粒子)があると考えられているが、それらは検出されていない。それぞれの力も空間の構成要素になり得るとすれば、9次元までの世界が想像できる。といっても、力が構成要素になる空間とはどんな世界か、素人には見当もつかないが。