望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

優れた政治家

 優れた政治家の要件は何か。第一に高く豊かな見識を持ち、第二に論理的な思考力を有し、第三に人々の暮らしに精通し、第四に自分の利益より人々の利益を優先し、第五に強い情熱と意志を持ち、第六に意見や利害の対立を公平に調整する能力を有し、第七に人々を励まし、前向きの気持ちにすることができる。

 しかし、そんな素質を有する人物は既に様々な分野で職務に励んでいて、人々から頼りにされてもいるだろう。優れた人物が、職を投げ打って政治家になることは社会にとって歓迎すべきことで、必要なことでもある。だが、そんな人物が必ず立候補するとは限らない。

 優れた人間が立候補して当選し、優れた政治家になるのなら慶賀の至りだが、優れた人が当選しても、優れた政治家になる保証はない。さらに、優れた人だけが立候補しているわけでもないので、誰が優れた人なのか見分けるのは簡単ではない。

 優れた人が政治家になるのだと政治家像を理想化しすぎると、現実の政治家の言動に落胆することになる。人間の素質や能力は誰もが同じようなものであると見るならば、たまたま当選して政治家になった人が急に優れた政治家に変身する……はずがないと理解できる。

 選挙は優れた人を選別するプロセスではなく、主権者の政治的な意思表示を行う機会だとの原則に立ち返るなら、候補者の中から優れた人や優れた政治家を求めるという過剰な期待を持たなくてもすむ。

 優れた政治家を求めるのは、政治家にリーダーシップを期待するからだろう。それは主権者意識の希薄さと比例する感情であり、優れた政治家が増えれば政治は素晴らしくなるという幻想に支えられている。しかし、期待は裏切られる。優れた政治家が増えたとしても、政策などの意思決定にどれほど関与できるのかは不明だから。

 自分と同じような資質や能力を持つ人が、たまたま当選したので政治家になっているのだと主権者が理解すれば、政治家に求めるものが見えてくる。判断を誤らないようにするためには自分ならどうするかを考え、それを政治家に当てはめればよい。