望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

内政干渉という反論

 米国で成立した香港人権・民主主義法により、①香港で「一国二制度」が機能しているかどうかを米政府が毎年検証、②香港で人権侵害を犯した人物には米国入国禁止など制裁を科す、③香港経由の中国への米国製ハイテク製品の不正輸入を米国政府が毎年検証ーなどが行われる。

 中国は猛反発し、外務省声明は「断固反対する」「重大な内政干渉で、あからさまな覇権の行使だ」「米国が独断専行をやめなければ中国は必ず報復措置をとる。一切の悪い結果は米国が負うことになる」と強硬な抗議の姿勢を示して見せた。

 植民地だった香港を英国は1997年に中国に返還したが、50年間は、外交・防衛を除く分野で高度の自治を維持すると中国に約束させた。高度の自治とは香港が独自の行政権、立法権司法権を有し、大陸中国とは別の法体系に基づいて言論や集会、移動などの自由を有することだ。中国共産党が独裁する「一国」に属する香港だが、大陸中国とは別の独自の制度を持つので「二制度」……これが揺らいでいることは最近の香港のデモなどが示している。

 米国の香港人権・民主主義法は、中国に対する内政干渉になるのだろうか。中国という「一国」に香港は属するので、内政干渉だとする中国の主張は正当に見える。だが、香港において「二制度」が崩壊したなら一国二制度は有名無実になる。中国が香港を含めた「一国一制度」に移行することは、外交の問題か内政の範疇か。

 内政干渉と主張することで中国は香港の位置づけを、中国の「外」ではなく「内」だと示す。それは中国が約束した一国二制度を、50年待たずに骨抜きにし形骸化させるために役立つ。だが、一国二制度は中国が一方的に破棄できるものではない。米国が国内法で香港の一国二制度を維持しようという行為は、中国が一方的に一国二制度を破棄しようとする行為と釣り合っているようにも見える。

 内政の及ぶ対象は、国家が主権を行使できる領土と領海の内部である。だが領土も領海も揺れ動くもの。現在でも例えば中国は南シナ海に「九段線」を設定して拡大した領有権を主張し、ロシアはクリミア半島を併合し、イスラエルは占領地での入植地建設を進め領土化している。南シナ海クリミア半島、入植地建設に対する国際的批判に対して各国が内政干渉だと反論できるとすれば、武力による領土・領海の拡大策を正当化する。

 各国が互いに主権を認め合い、他国の国内問題に対する干渉はしてはならないというのが国際社会の原則。干渉とは自国の何らかの権力を行使することで、他国の内政に関することを言葉で批判するだけなら内政干渉には当たらない。香港の抗議活動に対する米国など国際社会の支持を中国が内政干渉だと拒絶するのは、それ以外に反論する論理がないからだろう。

 国際社会のルールを自国に都合よく使い分ける中国政府は、内政だとして、南シナ海などで領有権を拡大させ、ウイグル族などへの弾圧を強化し、香港の自治を消滅させながら、国外からの批判に反発する。独裁する中国共産党は内政ならば何をやっても許されるという仕組みは、その内政の対象範囲を拡大させる仕掛けと一体のようだ。内政不干渉という国際ルールを中国は盾とする。