望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

やられたら、やり返す

 米国がテキサス州ヒューストンにある中国の総領事館の閉鎖を求め、大慌てで館員が機密文書とみられる書類を燃やす光景が話題になり、7月24日までに荷物を運び出し、館員は撤収した。やがて米政府当局者らしき人々が建物に入ったと報じられた。

 閉鎖を求めた理由として米国は、総領事館が①米国に対する「破壊活動に長く関与してきた」、②米国の知的財産を窃取する一大拠点(米研究機関にいる中国人のスパイにどんな情報を盗むべきかを具体的に指示)、③香港の民主派活動家を批判する活動や、中国の反体制派を本国に強制送還するチームの滞在拠点になっていたなどとする。

 中国は24日、四川省成都市にある米国の総領事館を3日以内に閉鎖するよう求め、「米国のとった理不尽な行動への正当で必要な対応だ」と対抗措置であることをあからさまにし、「米国の館員が中国の内政に干渉し、安全を損なう活動をした」と主張した。米国総領事館は27日に閉鎖され、中国当局が米総領事館に入り接収したという。

 中国のとった行動や主張は、米国のそれを真似していると見える。総領事館をひとつ閉鎖させ、館員の退去後に占有する。自国に害をなす行為の拠点になっていたと閉鎖を正当化する。ただし、米国の主張に比べて中国の主張に具体性が乏しいのは、大慌てで作成したものだったからか(情報公開が求められる米国と情報統制が基本の中国という違いも大きい。つまり中国では当局の情報は検証されず、真贋は問われない)。

 バカと言われたらバカと言い返し、ツバを吐きかけられたらツバを吐きかけ返し、肩を押されたら肩を押し返し、1発殴られたら1発殴り返す……やられたら、やり返すという方法は相手から甘く見られず、対等に振舞うためには欠かせない。ただ、1発殴られたら、つい2発殴り返したりしてエスカレートしやすいのが難点だ。対立しながら冷静さを保つことができなければ、すぐにエスカレートする。

 外交においても「やられたら、やり返す」戦略をとる国は多い。一方的に批判されても小声でムニャムニャと言うだけだったり、領土や領海が脅かされても退去を求める呼びかけしか行わない国に対して、一方的な批判を止める国はないだろうし、領土や領海を侵犯することをやめる国はない。批判されたら批判し返し、領土や領海を侵犯されたなら追い出しにかかる国が世界では一般的だ。

 中国の今回の外交は米国に対して「やられただけを、やり返す」を実行したように見える。欧米主導の世界秩序に中国が挑んでいると見える昨今だが、米国に対して中国は慎重に振る舞う。米国以外の国に対して中国は一方的な批判や行動をし、エスカレートも辞さないとの態度をちらつかせるが、米国に対しては冷静にエスカレートを自制する。米国が「やられたら、倍にして、やり返す」国であることを知っているのだろう。