望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

公約の効能

 お題目とは「法華経の題目(「南無妙法蓮華経」と「妙法蓮華経」)を丁寧にいう語」だが、「ありがたそうに唱えているばかりで、内容・実質のない主張」(大辞林)という意味でも使われる。実質がないという点では選挙を前に政党がでっち上げ…いや、急いで作成した公約にも、お題目の雰囲気が漂わないでもない。

 選挙で政党が掲げた公約を実現するには、政権を担うか連立政権に参加することが必要だ。つまり、選挙で第1党になれず、連立政権にも参加しない政党には公約を実現することは簡単ではない。候補者数が少なく、連立政権に参加するつもりがない政党の掲げる公約は、まさに「絵に描いた餅」であろう。

 選挙には公約がつきものだ。政党にも公約がつきものであると思いがちだが、選挙の間際になって公約の制定作業を急いで始めるところもあって、選挙対策の標語でしかない。政党に確立した綱領があるなら、その現実化が公約となるだろうが、綱領がなく、行き場を探す候補者が寄せ集まった政党なら、集票狙いの標語がお似合いだ。

 投票してくれた主権者と政党との約束だと公約は見なされるが、拘束力はゆるい。選挙が終われば公約の出番は終わったも同然。そこらは主権者のほうも承知しており、当選すると公約を「忘れる」候補者を繰り返し当選させたりする。主権者は公約の実現をあてにしていないか、投票する判断基準に公約は関係しないのか知らないが、公約の影は薄い。

 選挙に勝って政権を担った政党は、公約を着実に実現していると主張するだろうが、大まかな方向を示すだけなのが公約。具体的なことを掲げると、後から検証された時に「実現していないじゃないか」とすぐ分かるから、どのようにも言い繕うことができるようになっている。

 各党の公約には、未来とか活力、地方再生、暮らし、安全・安心、社会保障、環境、誇り、平和、決断、無償化、減税、雇用、高齢者支援、景気対策、年金、医療、介護、原発、子育てなどの文言が散りばめられる。

 政治家や政党が様々な課題に満遍なく配慮し、対策を考えているように公約は装うが、選挙の後、法案作成や法の執行など具体的な事柄になると官僚主導が実態だともされる。官僚は政党の公約に制約されないから、選挙の際の公約が集票狙いの標語になるのも当然か。