望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

防衛目的のためにアピール

 核実験を繰り返す北朝鮮は、すでに数発の核爆弾を保有し、各種のミサイルに搭載できるように開発を進めていると見られている。国際社会は北朝鮮に核開発を断念するよう交渉し、過去に何度も合意に至ったが、北朝鮮は核開発をやめなかった。開発は相当進んでいるだろうから北朝鮮が今後、交渉によって核開発を断念する可能性は小さいだろう。
 
 そこで、現実となった北朝鮮核兵器の脅威に対抗するために日本も核兵器を持つべきだという議論がある。北朝鮮核兵器を手放すことはないと見、口汚く他国を罵る外交にプラスし、核兵器を振りかざして一方的な主張を押し通そうとするだろうから、同等の破壊力の裏付けを持って対抗すべきとの考え方だ。

 だが、日本や韓国が核兵器を持ったなら、北朝鮮がおとなしく国際社会に従うかどうか定かではない。さらに、日本や韓国が核兵器を持ったとして、北朝鮮との間で相互抑止(相互確証破壊)が機能するかどうかも定かではない。理性的な判断応力が相手側にあると見なければ、相互抑止は機能しない。

 通常兵器では北朝鮮も米韓も相手に対して多大な被害をもたらす能力があり、通常兵器においては相互抑止の状態だ。北朝鮮が少数の核兵器を持ったところで、米国の核兵器による圧倒的な破壊力の優位は揺るがず、北朝鮮が核搭載の長距離ミサイルで米国本土を攻撃できたとしても、すぐに北朝鮮全土が戦場になるだろうから、北朝鮮には圧倒的に不利だ。

 北朝鮮が米国本土への核攻撃能力を主張するほど米国の警戒心と敵愾心が高まるので、北朝鮮核兵器保有が米国との交渉力を高めるとは見えない。核兵器を使用しての先制攻撃は北朝鮮にとって自殺行為であることも明らかであり、北朝鮮核兵器保有の目的は防衛力(反撃力)を高めるためと解釈するしかない。

 防衛目的とすれば、北朝鮮核兵器所有を米国や国際社会に対してアピールする必要性が理解できる。核兵器保有していることを相手に意識してもらうことが、防衛目的のためには効果的だろう。「俺も死ぬけど、あんたも死ぬぞ」と思ってもらうことが有効なのだ。

 核兵器は、使うことができない武器である。1945年以来、多くの核兵器保有国が多くの戦争に関わったが、核兵器を使った国はない。核兵器を使ったなら、その戦争の終戦後に、核兵器の使用責任を問う声が世界で巻き起こるのは確実だろう。ただし、世界のどこにも逃げ場がなくなった独裁者が死に直面した時に、核兵器使用を命ずる可能性はある。