望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

宙に浮く香港の民意

 香港には18の区議会があり、主に公共交通や公共施設の運営、ゴミ回収など地域問題に関して行政に意見具申する諮問機関の役割で、何らの決定権も持っていない。そんな香港の区議会の選挙が世界的な注目を集めたのは、民主派から多くの立候補者があり、香港の「民意」が示されるとの観測からだった。

 香港では首長の行政長官や立法会(議会)議員の選挙では立候補が制限され、実質的に親中派の支持を得た人物が有利となり、民主派は選挙以前に排除される。日本でも過去、大政翼賛会などが候補者を推薦する翼賛選挙があって軍部独裁を支えたが、中国共産党の締め付けが強まる香港では中国共産党体制翼賛の選挙が行われている。

 その香港の区議会選挙で民主派が圧勝した。11月24日に行われた投票で、18区議会の計452議席のうち民主派が385議席、85%を獲得した。この選挙前の民主派の議席は約3割だったというから、この選挙を、長く続くデモに対する世論調査とみると、デモを支持する圧倒的な民意が示されたと判断できる。

 民主派が区議会選挙で過半数を獲得したのは、1997年の英国から中国への返還後初めてという。得票率では民主派が57%、親中派41%だったが、小選挙区制度のため民主派が85%の議席を獲得した。投票率は前回の47%から71%に跳ね上がり、返還以来の直接選挙で過去最高。人々の関心が高まり、投票行動に人々が動いたことを示す。

 香港で人々が選挙で意思表示することは制限されている。他の住民投票制度もなく、人々の意思=民意を表明する制度はない。大陸中国のように中国共産党の独裁統治に抑え込まれている人々なら、主権を持たない従順な「羊」として生きることに抵抗は少ないかもしれないが、香港の人々は英国の植民地統治の中で、人が自由に生きることの価値を知った。

 香港の人々は政治への参加を求めている。だが、現在の香港の統治システムに民意を尊重する仕組みはない。憤った若者らはデモで政治への参加を要求するしか方法はない。だが、香港の政治を司る人々は大陸中国共産党の指示に反する行動はできない。中国共産党も、世界が注視する中で厳しい弾圧を香港で行うことはできず、香港の人々の民意は宙に浮いたままだ。

 自由選挙を行って、そこに示された民意に従って政治を行うという民主主義なら、政治の方向を転換することは容易だろう。だが、権力を占有して独裁する中国共産党が、民意に従うことは簡単ではなく、独裁を維持するためには民意を無視することが必要になる。諸悪の根源は独裁統治を続ける中国共産党にある。