望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

100年前の平和原則

 大規模な戦争が続いていて、多くの惨状を具体的に突きつけられると、人は戦争の愚かさと平和の尊さを痛感するだろう。戦争に対する拒否感が強まるとともに、愚かな戦争がなぜ起きたのか分析し、戦争を起こさないためには何が必要かと考え、恒久平和のために理想を重視した考えを受け入れやすくなったりする。

 まだ第一次大戦が続いていた100年ほど前の1918年1月、米国の第28代大統領ウッドロウ・ウィルソンは、「すべての平和を愛する国民にとって、世界を安全なものにする」ためという平和原則14カ条を発表した。諸帝国が解体した後の世界の国際規範の提案でもあった。

 平和原則14カ条の内容は、1)講和交渉の公開・秘密外交の廃止(開かれた形で到達した開かれた平和の盟約。外交は常に率直に国民の目の届くところで進められるものとする)、2)海洋(公海)の自由(平時も戦時も同様に、領海外の海洋上の航行の絶対的な自由)、3)経済障壁の撤廃(和平に同意する全ての諸国間における、全ての経済障壁の可能な限りの除去と貿易条件の平等性の確立)。

 4)軍備縮小(国家の軍備を、国内の安全を保障するに足る最低限の段階まで縮小することで、適切な保証を相互に交換)、5)植民地問題の公正な処置(植民地に関する全ての請求の自由で柔軟かつ絶対的に公平な調整。当事者である住民の利害が、法的権利の決定を待つ政府の正当な請求と同等の重みを持たされなければならない)。

 6)ロシアからの撤兵とロシアの政体の自由選択、7)ベルギーの主権回復、8)アルザス・ロレーヌのフランスへの返還、9)イタリア国境の再調整、10)オーストリア=ハンガリー帝国内の民族自治(彼らには、自治的発展の最も自由な機会が与えられるべきである)、11)バルカン諸国の独立の保障。

 12)オスマン帝国支配下の民族の自治の保障(トルコ人支配下にある他の諸民族は、確実な生命の安全と自立的発展のための絶対的に邪魔されることのない機会を保証されるべきである)、13)ポーランドの独立、14)国際平和機構の設立(大国にも小国にも等しく、政治的独立と領土保全の相互保証を与えることを目的とする具体的な盟約の下に、諸国の全般的な連携が結成されなければならない)。

 第一次大戦を引き起こした諸帝国は解体に向かった。帝国の時代は第一次大戦で終わったともいえるのだが、2)3)4)あたりは現在でも中国絡みで国際的な懸念を生じていることから、遅れて来た帝国に中国が変貌していると見えてくる。歴史は繰り返すとするならば、いつか中国帝国は大規模な戦争を引き起こし、その結果として中華帝国が解体し、10)12)のように中国帝国内の民族自決が実現するのかもしれない。