望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

近代の期間

 日本史における近代の期間は「明治維新から太平洋戦争の終結まで」とされる。太平洋戦争の終結は1945年で明確だが、明治維新の始まりと終わりについては諸説あり、明確ではない。明治維新という理解は後世の人々による時代区分の設定であるから、どういう要素を重視するかで解釈は異なる。

 明治維新幕藩体制の崩壊から始まり、近代天皇制国家の形成で終わる変動を指す。明治維新を描くドラマなどでは黒船来航から始まることが多いようで、鎖国政策を放棄させたペリーの浦賀来航(1853年)は明治維新の始まりの象徴か。一方、大塩平八郎の乱や改革の失敗など幕藩体制の弱体化が顕著になった天保期(1830~1843年)を明治維新の始まりとする説もある。

 ペリーの浦賀来航に続いて日米和親条約締結(1854年)、大政奉還と王政復古(1867年)、江戸城無血開城と新政府成立(1868年)、戊辰戦争終結(1869年)、廃藩置県1871年)、地租改正(1873年)、西南戦争(1877年)、大日本帝国憲法発布(1889年)と大きな出来事が続く。明治維新の終わりも何を重視するかで諸説に分かれる。

 ペリーの浦賀来航から大日本帝国憲法発布までの36年間を明治維新としても、日本史における近代の始まりは明確ではない。幕末の開国を近代への転換点とする説が有力で教科書などでも同様の説明がなされているそうだが、大政奉還と王政復古を重視する説もある。時代の変動は1日で起きることもあり、数十年かけて起きることもあるのだから、近代という時代区分の切れ目をどこにおくかは解釈次第だ。

 近代という時代区分は各国史においても適用されるので、近代とみなす共通条件がある。それは、①封建主義時代の終焉、②主権国家体制の成立、③市民社会の成立、④資本主義の成立、⑤国民国家の成立、⑥個人主義自由主義の成立ーなどだが、これらは欧州で先に成立したシステムであり、現代の世界でも受け継がれている。

 これらの制度・システムや意識などの変化が社会に定着するには年月を要し、さらに地域や社会によって変化に要する年月は異なり、重視する条件によって各国の近代の期間にも諸説ある。第二次世界大戦終結を近代の終わりとする国は多いが、国によって異なる解釈もある。

 近代は欧州諸国が世界各地に植民地を獲得した時代でもある。資本主義が発達して国外に新たな市場を求めたのだが、植民地では過酷な支配が伴った。日本の明治維新は欧州諸国の植民地主義の脅威に対応した自発的な近代化の始まりと考えられるが、植民地とされて独立に長い時間と多大な努力を要した国は多い。そうして独立した国における近代化は欧州をモデルとせざるを得なかった。