望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

監視国家と国境

 中国は、ネットを介した厳しい監視国家になった。少数民族が住む地域が以前から徹底した監視下に置かれていることは報じられていたが、そうした監視技術が、より高度化されて全土で使用され、厖大な個人情報が蓄積され続けているそうだ。

 例えば、大量の監視カメラが人々の行動データを収集し、スマホやパソコンでインターネットを使用すると、書き込みはもちろん、あらゆる取引履歴も把握される。収集された膨大な個人情報はAIで個人を識別する精度を上げるために使われるだろうから、国家による個人の監視は強化されるばかりだ。

 さらに、中国政府は個人の社会信用度をランク化する制度を導入、政府が決めた基準によって個人の行動に点数をつけ、個人点数が一定水準以下に下がった人は、鉄道や飛行機のチケット購入が禁止されたり、買い物や旅行、就職先の制限などを課せられるという。親の社会信用度が低ければ子供の進学先も限られるとか。

 倫理や道徳も国家権力が独占し、国家の決めた規範に従って人々は生きていかなければならないという中国。個人の信用度を国家がランク付けすることができるのは、国家が個人を監視し、その行動や言動などのデータを細かく収集できるようになったからだ。

 倫理や道徳を国家権力が独占するとは、自由や民主主義、人権尊重などを求める個人を、例えば、軽微な交通違反や軽犯罪などを口実に社会から排除することを正当化する。そうしたことは既に行われていたが、容赦のない監視社会になるにつれて、システム化されて迅速に排除が行われることになろう。

 中国が「先進的」なキャッシュレス社会に急速に移行していると賞賛する報道が日本で増え、キャッシュレス化を日本でも進めるための雰囲気づくりが進んでいる。だが、中国でのキャッシュレス取引データは国家が全て把握しているだろうから、特定の個人をキャッシュレス取引から排除することも可能だろう。

 中国製のスマホや通信機材、監視カメラなどは日本をはじめ世界で販売されているが、データが密かに中国に送信されているとの疑念がつきまとっている。日本に住んでいるから中国政府が自分の個人情報を収集しても気にしないという考えもあろうが、外国の企業にも政治規範を強制するなど中国政府は国境の外をも管理する。外国に住む人の個人情報を収集した中国政府は、それを「有効」に活用するだろう。