望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

巨大化するフロントグリル

 横断歩道を渡り始め、ふと気配を感じて横を見ると、停車した自動車の巨大なフロントグリルがあったりする。2つのヘッドライトを目とすると、大口を開けている表情に見える。その表情は街の風景に溶け込むのではなく、強く存在感を主張している。

 世界的に自動車のフロントグリルが巨大化する傾向にある。フロントグリルで個性(伝統)を表現するのは、ロールス・ロイスアルファロメオBMWなど欧州メーカーでは珍しくはなかったが、最近の巨大化するフロントグリルの流行は、アウディが新しいフロントグリルに変え、個性を際立たせたことから始まったという。

 それからレクサスがフロントグリルのデザインを一新し、独特なデザインを採用、モデル数が増えるにつれてフロントグリルを巨大化させたレクサス車が増殖した。それが世界のメーカーを刺激し、フロントグリルで各社の個性を強調することを促したように見える。

 フロントグリルは巨大化してもラジエターが大きくなったわけではないから、巨大なフロントグリルをよく見ると、空気を取り込む部分は小さかったりする。つまり、巨大化したフロントグリルの大半がデザイン優先の装飾だ。

 世界的に自己主張を強めたカーデザインが流行で、巨大なフロントグリルは欠かせない要素になったようだ。電気自動車にはラジエターは不要だからフロントグリルも不要なのだが、各社の最新の電気自動車にも大きなフロントグリルは健在だ。

 フロントグリルを巨大化するとしても、ボンネットの先端を持ち上げると空気抵抗が増えるので、左右方向か地面方向へと面積を増やす。だから、巨大化したフロントグリルの下端が地面スレスレまで下がった車種もある。

 迫力ある表情を狙ったのだろうが、不都合なことも起きる。それは冬の雪国の路上だ。降雪が多かったりすると、除雪が間に合わない道路が増え、自動車は掘られた轍をなぞって進むしかない。そんな時に車体底部は轍の間の雪面に接し、地面方向に広がった巨大なフロントグリル下部に雪がたまる。口を大きく開けて雪を頬張っているような表情に見えては、微笑ましいだろうが、迫力は消え失せる。