望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

キャッシュレス決済の罠

 中国ではクレジットカード決済などよりもQRコード決済の普及が進み、屋台でも利用可能になり、現金をほとんど使用しないで日常生活が可能だと、シェア自転車などシェアエコノミーと合わせて、中国社会の「先進性」が日本でも盛んに報じられた。

 キャッシュレス決済の利便性ばかりを強調して報じ、「中国に遅れるな」と、日本もキャッシュレス決済に移行するのが当然だとの雰囲気づくりが始まった。だが北海道胆振東部地震による停電が、キャッシュレス決済の脆弱性を露わにした。

 店舗の読み取り端末などが停電で使えなかったり、回線網が断絶や通信制限などで機能しなくなった時にキャッシュレス決済はできなくなる。スマホを使ったQRコード決済も、地震後のスマホでの通話が制限される状況下では厳しい。決済情報を即時処理するキャッシュレス決済には電気と通信が確保されていることが必要だ。

 盛んに利便性ばかりが日本で報じられた中国のシェア自転車だが、失速していることが日本でもようやく報じられ始めた。中国におけるキャッシュレス決済にもおそらく問題点や脆弱性などがあるだろうが、偽造のQRコードによるキャッシュレス詐欺が報じられる程度だ。

 キャッシュレス決済には別の懸念もある。中国などの独裁国家では、個人のキャッシュレス決済の情報を国家が監視しているだろうし、危険とみなした人物をキャッシュレス決済から排除することも可能だろう。キャッシュレス決済の社会では、日常的に国家が特定の人物を国内経済から除外し、困窮させることができる。

 脆弱性も問題点も抱えるキャッシュレス決済だが、日本で本格的な導入へ向けて環境整備が進んでいる。大手銀行が全国の支店の統廃合や人員削減を急いで進めるのは、キャッシュレス決済の普及を前提にしているのだろう。人件費などを削減できるのだから、小売店もキャッシュレス決済導入には前向きだ。

 キャッシュレス決済に伴って蓄積される個人の取引情報は、企業にとって魅力的だろう。そうした情報がどう「加工」されて商品になるのかも懸念されるところだ。さらに日本でキャッシュレス決済の普及に伴う現実的な懸念は、普通預金にもマイナス金利が導入されることだろう。キャッシュレス決済が普及すると、マイナス金利になっても口座を解約できない。