望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

進化と雑種

 広島市で、特別天然記念物オオサンショウウオと中国原産の外来種チュウゴクオオサンショウウオの交雑個体が、今年5月に初めて見つかってから既に数十個体が確認されていると報じられた。交雑が進むと、日本固有のオオサンショウウオが絶滅するおそれがあると懸念され、同市は交雑個体を捕獲・隔離して飼育しているが、今後も交雑個体の確認は増えると見られている。

 同様の交雑個体は京都府三重県などでも確認されているという。報道によると、オオサンショウウオは寿命が数十年と長く、飼育には広いスペースに加え餌代や水道代なども要する。交雑個体を隔離するのは日本固有のオオサンショウウオとの交配が進まないようにするためだが、三重県名張市での交雑個体の飼育数は約150匹になっていて、交雑個体を駆除できるように特定外来生物に指定するよう求める意見が出ているという。

 交雑とは「 遺伝子型の異なる生物の2個体間で交配すること。結果として生じる新個体を雑種という。異系統、異品種、異種、異属などの間で行われ、品種改良として人工的に利用される」(日本国語大辞典)で、雑種が交雑個体。外来動物との交雑個体は現在では排除や駆除の対象になり、特定外来生物に指定されると殺処分もある(人間ならば交雑個体は社会に受け入れられる?)。

 地球史における生命の歴史を考えると、全ての生命は太古から様々な遺伝子の交雑の結果で進化してきたのであり、「純粋」な生命は存在しない。交雑個体の概念は「純粋」な個体が存在するとの考えによって成立するものだ。その「純粋」とは、日本固有種のように特定の地域にのみ生息する生物種を遺伝子的に固定させて保護するための発想だ(血筋の純粋さという虚構を日本人は批判しにくいか?)。

 この「純粋」という考えを人間に適用したのが、アーリア人の卓越を主張してユダヤ人の大虐殺を行ったナチスだ。現在でも、白人の優越を主張する米国などの差別主義者らに「純粋」を重んじる思考は受け継がれている。現生人類はアフリカで誕生して世界に広がったとされ、「純粋」な人間は存在しない。差別主義者らの主張する「純粋」は近代〜現代を基準にした思い込みでしかない。

 外来種や交雑個体の殺処分を正当化する考えに欠如するのは、生命の尊重である。日本の固有種は保護されて細々と生き延び、大量の外来種や交雑個体が駆除・殺処分される状況は「日本の自然が守られて、よかったね」と喜ぶべきものではないだろう。皮肉にも、中国産のトキの繁殖が成功したとしても日本の固有種の復活ではないのだが、外来種の中国トキに対する批判は見えない。

 雑種がなぜ悪い? 交雑個体も自然界においては固有種などと同列に扱われるべき生命であろう。さらに、様々な遺伝子が混じり合うことにより様々な雑種(交雑個体)が誕生し、その繰り返しが生命の進化につながったことを想起するなら、過剰な現在の固有種の保護と外来種・交雑個体の駆除は再考を要する。特別天然記念物オオサンショウウオと、食用として人為的に持ち込まれた中国原産のチュウゴクオオサンショウウオの交雑個体はオオサンショウウオの進化の微小な1段階かもしれない。