望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





トキも外来生物か

 

 日本では外国起源の外来種外来生物と呼ばれ、その中で、生態系や人体、農林水産業へ被害を及ぼす動植物は特定外来生物に指定され、法的規制の対象になる。現在(2013年)は哺乳類21種類、鳥類4種類、爬虫類16種類、両生類11種類、魚類13種類、クモ・サソリ類10種類、甲殻類5種類、昆虫類8種類、軟体動物類5種類、植物12種類が指定されている。



 規制は厳しく、輸入することはもちろん、飼育や栽培、保管、運搬を行ってはならず、野外へ放ったり、植えたり、蒔くこともダメ。許可を受けて飼養する場合(動物園など)は、マイクロチップを埋め込むなどの個体識別等をしなければならず、許可を持っていない者への譲渡、販売ももちろんダメ。罰則は厳しく、個人では懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金 ( 法人では1億円以下の罰金)にもなる。



 例えば魚類でブルーギルコクチバスオオクチバスは釣魚として、各地で意図的な放流が行われて増えているとされるが、特定外来生物に指定されたので、放流はもちろん、運搬自体が法に触れることになる。釣りに出掛けて、うっかり釣り上げて持ち帰るのはダメ。その場ですぐに放さなければならない。これは、キャッチアンドリリースなら容認されるということで、環境省は釣りマニアに妥協した?



 一方で特定外来生物を駆除することは、基本的に誰でも自由に行うことができるので、うっかり特定外来生物を捕獲した時は殺処分すれば、法に抵触する可能性は低くなる。殺処分した特定外来生物なら、運搬して持ち帰っても法に触れることはない。



 外来生物の規制をする一方で環境省は、日本では絶滅したトキを“復活”させようと、中国から贈呈されたペアから繁殖を進め、生まれたトキの放鳥を続けている。すでに100羽以上を放鳥し、野生下でのヒナの誕生、巣立ちが始まっている。マスコミでは「いいニュース」としてのみ報じられるが、将来、トキが増え過ぎて、農作物に大きな被害を及ぼすようになった場合には特定外来生物に指定するのかしら。



 実は、中国で生息しているトキも日本で絶滅したトキも、種としては同一であるという。だから中国産のトキは外来種と見なされず、人工的な繁殖が容認される。将来、増え過ぎて農作物に被害を及ぼすようになっても、ただの害鳥扱いかもしれない。外来生物扱いすると、トキの繁殖事業自体が否定されることになる。



 トキ以外にも、外国から日本に来た生物で、渡り鳥とか、海流や風で運ばれてきた生物や植物の種などは外来種とはされない。また、すでに日本に定着した外国起源の生物は多く、犬や猫などペットでも外来種が多く、外来種と共存は可能だ。



 「生態系や人体、農林水産業へ被害を及ぼす」の条件に当てはまる外来生物が規制されるのだが、人体や農林水産業に被害を及ぼす生物を規制するのは妥当だろうけれど、命というものを考えた時に、生態系を乱すからという理由は一考の余地がある。生態系を、固定したものであるべきとする発想が間違いなのだ。日本の生態系も常に変化していると認識すると、外来生物も変化の1つの要因でしかなくなる。