望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

噴き出るもの

 駅弁の「かにめし」で知られる長万部町に名物が一つ加わった。飯生神社の敷地内の松林の中で8月8日から、水が約30mの高さまで噴き出した。噴き出す勢いは衰えず、3週間以上も噴き出し続けている。噴き出したのは温泉だとみられたが、天然ガスが地下水とともに噴き出したとの見方もあった。見物人が連日集まってきているが、町は近くへの立ち入りを禁止し、火気厳禁だと注意喚起している。

 公表された検査機関の分析結果によると、「人体に影響を及ぼす有害物質は検出されておらず、低温泉水と推定される」(長万部町サイト。22日)。水温は21.5℃のナトリウム一塩化物・炭酸水素塩泉で、ヒ素が0.013mg/L検出されたが「温泉ではもっと高い値で検出されることが一般的で、人体に害となる数値ではない」とし、「食塩泉であることから、塩害(金属類が錆びる)の問題、また、鉄、マンガンが高いことから茶〜黒色の着色の問題が起こる可能性がある 」とした。

 分析結果に天然ガスについての記述はなかった。天然ガスの成分はメタン(CH4)が約9割を占め、ほかにエタン、プロパンなど複数の炭素化合物や窒素、二酸化炭素硫化水素硫黄酸化物などを含む。検査機関が分析したのは採水された噴出水なので、公表された分析結果には気体(ガス)に関する記述はない。付近で検出されたという可燃性ガスについては別の調査が必要だろう。

 30mもの高さまで水柱が噴き出し続けたことは、相当の圧力が地中に存在することを示す。マグマの上昇などの兆候は報じられていないので、可能性としては①地中に溜まり続けた天然ガスの圧力が高まり地下水とともに噴出した、②温泉水が地中で熱せられて沸騰した。水柱の噴出が続いているので、地中の圧力は継続しているとともに、何らかの圧力が供給され続けていることになる。

 地中で温泉水が沸騰して噴き出している実例がある。長万部町から噴火湾沿いに南東に車で1時間半くらい行ったところに鹿部町があり、間歇泉がある。大正13年に温泉を掘っている時に偶然発見されたという間歇泉は「自然の力だけで約100度Cの温泉を一定間隔で噴き上げ続け」「1回に噴き上がる量は500ℓほどで、約10〜15分ごとに約15m以上の高さまで噴き上が」る(間歇泉公園リーフレット)。

 噴き上がる仕組みは同リーフレットによると、①間歇泉の温泉は地面から26m下から湧き出ている。113度Cの温泉がゆっくりと上がってくるが、パイプの深さが26mもあるので、2.6気圧の水圧がかかり、沸騰しない、②100度Cを超える温泉が地表近くの水圧の低いところまで上がってくると、沸騰し始める。

 ③沸騰でできた気泡はパイプの中の水圧を下げるので、どんどん沸騰し、温泉の湧き出す量も増える。沸騰が激しく起こると、温泉が勢いよく、空高く噴き上がる、④しばらく噴き上がると、噴き出す勢いに湧き出す温泉の量が追いつかなくなり、水位が下がる。このとき、温泉の温度も100度C以下に冷やされ、パイプ上部に溜まるので沸騰は終わる。その後、また温泉がゆっくりと上がってきて沸騰し、噴き出すことが繰り返される。

 長万部町の水柱は噴き出し続けているので鹿部町の間歇泉とは異なるメカニズムによるものだろうが、自然の驚異的なパワーを見せつけることでは共通する。長万部町を含め噴火湾の地中に膨大な天然ガスが埋蔵されており、その開発が今回の水柱をきっかけに進んで、日本は天然ガスを自給できるようになりましたーというのは夢物語かな。