望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

可視化された影響

 北海道森町の函館線・森駅―石倉駅間でJR貨物の貨物列車が脱線したのは11月16日。このため森駅―長万部駅間で普通列車と特急北斗とJR貨物の貨物列車が3日間運休し、鷲ノ木道路踏切の近辺で破損したレールや枕木の取り替え作業が完了したあと、19日始発から運転を再開した。特急北斗の運休で影響を受けたのは16日が約5500人、17日と18日はともに約7000人。

 運休が続く函館―長万部駅間で17日から代行バスの運行が始まった。特急北斗は函館-札幌間を11往復/日しているが、JR北海道が用意できた代行バスは4往復分で、十分な代替輸送を確保できなかった。JR北海道は他の交通機関を利用するよう呼び掛けたが、札幌と函館を結ぶ都市間バスや航空便は満席となり、多くの乗客が取り残され、報道によると、函館-札幌間のJR以外の交通手段が乏しいことに観光客らから不満の声が上がった。

 函館―長万部駅間が運休したことにより、函館と室蘭・苫小牧・千歳・札幌などの間をJR特急で移動する人々は足止めされ、長距離輸送に欠かせないJR貨物の貨物列車が動かないので本州と北海道を結ぶ物流はストップし、北海道産の農産物をはじめ宅配便や雑誌などの輸送に大きな影響が出た。今回の運休は、道南で函館線が機能しなくなれば、どういう影響が出るのかを実際に示した。

 運休が始まった16日にJR北海道代行バスを手配できず、代行バスの運行が開始されたのは17日だったが、4往復分だけ。特急北斗の乗客全員を輸送できるか不明で、報道によると、利用客は「駅員から『代行バスに乗れる保証はない』と冷たく言われた。誰のせいでこうなったのかと腹が立った」。代行バスに使用した観光バス1台の乗客数は補助席を含め60人程度。

 函館市は新幹線の函館駅への乗り入れを目指し、コンサル会社に経済効果を試算させたり、PRイベントを開いたりと公金を使う。新幹線が函館駅に乗り入れるためには、新函館北斗駅函館駅間の全面的な工事が必要になる。在来線のレールの外側に1本、新幹線の軌道に合わせたレールを設置しなければならないが、それには枕木を全て取り替える必要があり、橋なども架け替えたり、場所によっては地盤強化も行わなければならないだろう。

 今回、鷲ノ木道路踏切近辺で破損したレールや枕木を取り替える作業は昼夜を通して行われたが3日間を要した。新函館北斗駅函館駅間は約18kmあり、新幹線を走らせるための作業は昼に限られるだろうから、相当の日数を要する。それは、相当の日数、特急北斗を含む在来線とJR貨物の貨物列車が運休することを意味する。在来線や貨物列車が3日間、運休しただけで大勢の利用客が移動できず、本州と北海道間の物流はストップした。

 函館駅への新幹線乗り入れを実現するためには、特急北斗や貨物列車などを工事が行われる相当期間、ストップさせることになり、その影響(=利用客や物流関係や道内の農業関係にかける迷惑)は計り知れない。函館市は現実的に問題が多い函館駅への新幹線乗り入れ計画を放棄し、市民の福祉向上のために公金を使うべきだ。新函館北斗駅函館駅間を、新幹線工事のために運休させる責任を函館市は負えるのか。