望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

自然も観光資源

 函館は人気が高い観光地だが、星形の城郭の五稜郭函館山山麓の元町の教会群、朝市、湯の川温泉などは市街地にあり、夜景に浮かび上がるのは市街地の姿で、グルメに人気の飲食店も大半が市街地にある。ほとんどの観光客は函館観光で見て回るのは市街地だけだろう。だが、函館は広く、市街地から少し離れると、太平洋や津軽海峡に面した海岸から豊かな山林まで、変化に富んだ自然が広がっている。

 函館の面積は677.87平方kmだ。東京都の面積(2,194.05平方km)のほぼ31%に相当するが、23区(627.53平方km)よりは広い。23区に隣接の調布市(21.58平方km)と武蔵野市(10.98平方km)と三鷹市(16.42平方km)を加えると676.51平方kmでほぼ函館市の面積に相当する。

 東京の区部では宅地が58.4%と多く、道路等22.0%、公園等6.3%などとなり、住宅や商業施設が建ち並び、人々が密集して住んでいる。函館は宅地が5.2%に過ぎず、山林が60.3%と過半を占め、原野・雑種地が6.9%、田畑が4.5%、その他(池沼や牧場、境内地、水道用地、ため池、保安林、公衆用道路、公園など)が23.2%となる。東京に例えるなら、千代田区と港区だけが市街地になって他は山林が広がっているイメージだ。

 函館市は、大正の頃までは函館山山麓一帯とそれに続く陸地が市域(約19平方km)だったが、1939年に湯川町と合併、1966年に銭亀沢村と合併、1973年に亀田市と合併(約348平方kmに拡大)、さらに2004年に戸井町、恵山町椴法華村南茅部町と合併して市域を2倍近くに拡大した。現在の主な市街地は昭和半ばまでの函館市だった辺りだが、現在の函館市は「渡島半島の南東部に位置し、北側と東側は太平洋に、南側は津軽海峡に面し,三方を海に囲まれ、函館山を要とし扇状に広がる平野部と段丘地形、さらに北東側に広が る山岳地で構成されて」いる(函館市HP)。

 市街地は函館市の面積の5%ほどで、そこに人気の観光名所が集中している。それらの観光名所を見たり、飲食店で海産物を食べたり、湯の川温泉を堪能して観光客は満足するだろうが、渡島半島の南東部を占めるほどに拡大した現在の函館市には未開発の観光資源が眠っている。例えば、恵山周辺だ。

 函館市の市街地からは津軽海峡越しに下北半島が見える。津軽海峡を吹き抜ける風が強いので、いつも波が立っているが、市街地から海岸沿いに東に車で行って汐首岬を過ぎた辺りから、波の大きさや強さが増す。対岸に見えていた下北半島は遠く離れ、津軽海峡を抜けて、太平洋の荒波が直接打ち寄せる状況になる。海岸沿いに点々と連なる小さな漁港の防波堤は高く積まれた消波ブロックに守られるが、太平洋から押し寄せる波が消波ブロックに当たって大きな白波となって舞い砕ける。

 活火山である恵山は溶岩ドームだが、数千年前の火山活動では山体崩壊により岩石がなだれ落ちたとされ、海岸沿いには方々に巨岩が海中からそそり立っている。海岸沿いの道路は細かく曲がりながら続くが、恵山御崎で巨岩に遮られて途切れる。巨岩と太平洋からの荒波に挟まれ、自然の荒々しさと雄大さを見せる。函館には自然という未開発の観光資源が眠っている。