望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

報奨金と裏金

 こんなコラムを2007年に書いていました。

がらっ八「親分、警察庁が情報提供者に直接、謝礼を出すっていうのは本当ですかい?」
平次  「捜査特別報奨金のことだな。殺人など凶悪事件の情報を広く求めることにしたんだな」
がらっ八「それじゃ、あっしらの役目は終わりってことですかい?」
平次  「未解決の凶悪事件の中から警察庁が対象を選び、その事件に関する情報に報奨金を払うという制度だ。年間で4、50事件を対象にするという話だが、初期捜査が一通り終わった事件ばかりだろうから、お前らの仕事はこれまで通り続けておくれ」
がらっ八「国民1億皆が岡っ引きになるのかと心配したんですがね、そうでもないらしいや。で、その報奨金っていうのはいったい幾らぐらいですかい?」
平次  「情報の質で額を決めるそうだが、容疑者が特定されている事件では最高100万円、未特定の事件では最高300万円。特例で1000万円までの増額もできるという」
がらっ八「そいつは太っ腹だ。聞き込みなら自信があるから、小遣い稼ぎができそうだ」
平次  「そうはいかないよ。警察関係や共犯者は対象外だ」
がらっ八「なんだ、つまらねえ。そうなると何か腹が立って来たな。あっしらが捜査している時には何も話さず、報償金が出るようになってから、急に思い出したとか言って、実は~と話し始める奴ばかりになりそうだ」
平次  「そんなことはあるまい。人間をもっと信じるべきだ」
がらっ八「そうですかね。金のためなら何でもする…こともあるのが人間だと思いますがね。現にあっしらだって、捜査費と捜査用報償費から裏金づくりを長いこと続けていたんですから」
平次  「間違えちゃいけないよ。われわれの裏金づくりは私欲を満たすためのものではない。半ば制度となっているから、捜査費、捜査用報償費、旅費、日額旅費、食糧費、参考人日当・旅費などで領収書を偽造して裏金をつくらざるを得なかった。裏金で自由に飲み食いして来たわけでもない。使い道も半ば以前から決まっているんだから」
がらっ八「その裏金については、北海道新聞を始めマスコミが暴いたから、領収書を偽造するのも注意が必要になっちまった。うかうかしてると、後から情報公開請求されてボロが出ちまうから」
平次  「本来なら深く反省して、裏金づくりはもうやめますと警察トップが言うべきなのだろうが、民間企業のように記者会見で頭を下げて幕引きともいかないからな。他の官庁の裏金づくりが明るみに出れば、公金横領で警察は捜査せざるを得ないだろうから、こっちの裏金づくりはなかったことにしなければならない」
がらっ八「こんな時期に捜査特別報奨金の制度をつくったてえのは、捜査費や捜査用報償費の予算を削ったことと関係あるんじゃないですかい? 予算を振り分けて総額としては減らさないようにしたってことのように見えますがね」
平次  「それもあるだろうが、架空の相手から情報を聞き込んだように偽装して捜査費や捜査用報償費を消化してきたツケが回って来たんだな。いまさら足で情報を聞き出せといっても、そんなことはほどほどにして偽造領収書づくりに精を出していたんだから、簡単には元に戻らない。捜査能力が落ちているのを認めざるを得なくなった。だから、一般から公開で広く情報を求めて、報償費を相手に直接払うことにしたんじゃないか」