望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

反米の歴史と構造

 アメリカは経済的・軍事的パワーで圧倒的存在であり、ハリウッド映画やポップミュージック、大リーグなど文化的影響力も大きい。例えば中東では、アメリカの政策を批判するような人でも米コーラや米映画が大好きだったり、過激派がラップ音楽で反米を歌ったりしていたという。

 強すぎて尊大だから嫌われる…というのがアメリカのようだが、日本は世界的に見て、親米度が高いという。政権は親米的でも、世論調査では親米度が低いのが欧州諸国などだが、日本は政権も民衆も親米度が高いようだ。経済面でも軍事面でもアメリカに依存する部分が大きいので、日本の親米度の高さは日本人の生活保守主義の反映なのかもしれない。

 アメリカ抜きでは世界は回らないが、アメリカは世界に大して関心がない。そのギャップからアメリカは、好かれ、嫌われる。イラク開戦のように具体的なアメリカの政策について支持/不支持が別れるのは当然だが、一方で反米が、ある種の思想的立場の表明であるように使われたりもする。反米とは何か。

 過去に開催された反米をテーマにしたシンポジウムから、気になった点を抜き書きすると次のようになる。
 ・アメリカと接した日本人は巨大な物量文明に、驚異と脅威を持った。つまり親米と反米は背中会わせ。
 ・中国では、直接的に侵略しなかったアメリカに親米感情があった。現在は大衆民族主義の台頭もあって反米はあるが、反米主義はない。反米は中国人のアイデンティティをあまり左右しない。中国にとって最重要の隣国はロシアであり、現在は歴史的な安定関係にある。
 ・中東における反米は、英仏以後の植民地主義の後継者であることとイスラエル支持が根拠。イラン革命後、反米にイスラムの価値概念が付与された。冷戦終結後、国家は親米に移行したが、民衆は民意を反映しない体制の擁護者とアメリカを見るようになった。アメリカが中東への直接的関与を深めるにつれ、反米に現実的根拠が与えられた。中東の対日イメージは「原爆などにより日本は反米であり、アメリカに抑圧されている中東に同情を持って当然」(大川周明が日本の知識人イメージ)、冷戦期のソ連の代わりに日本を持ち出す側面もある。
 ・フランスは反米ではなく、アメリカの最悪の友。アメリカの変化を期待することが反米と受け取られることがあるように、語り方の作法の問題が反米に含まれる。上位の力のみが秩序を維持できる現実世界で、暴力行使に関する考えの違いがアメリカ観に現れる。アメリカは形式的民主主義の段階にとどまっている。
 ・反米はアメリカの政策に対する具体的な不満から出てくる。
 ・反米は多義的、多面的ものであり、実体的なものとしてまとめての議論はできない。
 ・反米にはアメリカと対立する地域、国の状況が反映する。アメリカと反米批判が相互に反応して循環する。
 ・アメリカは独善的に反米を定義する。
 ・日本では天皇制が弱い時に親米が多くなる(日本が内向きになると反米が強くなる)。
 ・沖縄では米軍、米兵が見えるが、60年代以降、本土ではそれが見えにくくなり、アメリカ観に影響した。
 ・日本では、反米の根に感情的わだかまりがある。
 ・中東では反米は政治的なもの。宗教対立が根にあるのではない。アメリカ文化への憧れ、嗜好は強い。
 ・中国、台湾などでアメリカンスタイルの教育制度がとられているように、アメリカンスタンダードの伝播力は強い。
 ・アメリカは強大な島国である。

 巨大すぎるがゆえに厄介な存在であるアメリカ。反米の構造は複雑で、無数の反米があるのかもしれない。思いつきで乱暴かつ大雑把な捉え方だが、「近代」を代表するのが欧州で「現代」を代表するのがアメリカだとするならば、反米とは反現代であるということになる。