望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

連立を打診

 かつて中日ドラゴンズが強かった頃、こんなコラムを書きました。

 W氏は動いた。このままじゃ巨人の黄金時代はいつまで待っても来ない。毎年、FAで他球団から有力選手を引っ張ってくるが、勝つときは大差で勝つものの、それはせいぜい3、4試合に1回。しかし、W氏は、勝つことにしか興味がない。どんないいプレーをしようと、負けては価値がないと思うし、相手チームに見事なプレーが出て負けても、相手チームのことなど眼中になく、巨人が負けたことしか頭に残らない。


 それでW氏は、巨人がいつも勝つために何をすればいいのか考えた。FAで有力選手を1人2人と引っ張ってくるのは、まだるっこしい。チームごと引っ張ってくるほうが手っ取り早い。どのチームにするか。W氏はパリーグのチームをほとんど知らなかったため、セリーグに絞った。巨人がリーグでも毎年優勝し、日本シリーズでも毎年優勝するには、戦力が最もバランスよく充実している中日だと、連立の相手を中日に絞った。


 そこでW氏は密かにコミッショナーを使いにして中日にオーナー会談を提案した。テーマは「セリーグクライマックスシリーズのあり方」。


 マスコミには秘密で行われた会談では、セリーグでのプレーオフのあり方についての話が続き、クライマックスシリーズ廃止で一致した。会談の終わり頃になって巨人のオーナーが両球団の連立を提案した。「人気のある巨人と、実力のある中日が連立し、一体化するのが望ましい」と巨人のオーナーは言った。セリーグが5球団になってしまうとか、連立チームと他球団の実力差が開きすぎるとか、フランチャイズをどちらに置くかなど中日側から疑問が出たが、巨人は、国内リーグを勝ちぬき、アジアチャンピオンシップを勝ち取り、その先に大リーグのワールドシリーズに参加する構想を示した。そのためにも常勝チームを作らねばならず、両チームの連立が最善だと説いた。


 中日のオーナーは、持ち帰って協議するとその場を引き取った。名古屋に戻って巨人からの提案を明かすとチーム関係者は皆反対し、「そんな話を即座に断らずに、持ち帰ること自体がおかしい」との声さえあった。中日のオーナーは、連立の話を聞いた時から実は連立に応じる腹でいた。条件は、オーナー、監督など首脳部を中日がとること。対等な連立でもなく、いわんや巨人に中日が協力する形の連立でもなく、中日に巨人が協力する形の連立を構想した。


 中日が回答する前にY紙に「巨人、中日が連立」という見出しの記事が載った。記事では、日本最強のチームをつくり、日本シリーズで毎年優勝して、大リーグ・プレーオフワールドシリーズへの参戦を目指すため、中日が巨人に連立を申し入れたとしてあった。その記事で中日側が態度を硬化させ、即座に巨人に連立拒否を回答した。


 W氏が書いたシナリオは実現しなかった。さらに、W氏が画策したことがマスコミに露見し、広く批判を浴びた。W氏はむかっ腹を立て、もうプロ野球には一切関与せず、本来の“土俵”である政界工作に専念しようと決めた。