望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

大切な温室効果

 温暖化を真剣に心配し、「このまま世界でCO2の排出が増え続ければ、僕たちが大人になった将来に、地球の環境は大変なことになる」と10代のM君は危惧する。大気中のCO2濃度をすぐにでも下げなければならないと考えたM君は、大気中からCO2を回収するシステムを早急に整備するべきだと主張する。

 各国はCO2の排出削減を打ち出し、CO2や温室効果ガスの排出をEUと米国、日本、英国、カナダなどは2050年までに実質ゼロにするとし、ロシアと中国は2060年までに実質ゼロにするとし、インドは2070年までに実質ゼロにする目標を掲げた。CO2など温室効果ガスの排出を抑制することは国際政治的に各国とも反対できない事項となった。

 CO2の排出増加により温室効果がさらに強まると危惧するM君は、各国の削減目標からすると今後30〜40年はCO2など温室効果ガスの排出は各国で持続するので、大気中に蓄積するCO2などは増え続けると理解した。温暖化の危機が欧州主導で世界的に煽られる中で、危機感に反してCO2などの排出は今後も増え続けるという世界。

 M君はこの状況に納得できない。CO2などの排出により地球規模で温暖化が進行し、すでに気象災害などが各地で顕著になって現れているのだから、CO2などの排出削減を各国は最優先で行うべきだとし、排出を実質ゼロにすることを各国に任せるべきではなく、例えば、5年後には実質ゼロにすることを各国に強制する世界ルールを策定すべきだとM君は力説する。

 温暖化が進行すると、世界的に平均気温が大幅に上昇し、気象災害が増え、氷河の溶解などで海水面が上昇し、気候難民が増加するとM君は信じた。2050年や2060年まで待たず、すぐにCO2などの排出削減をするべきだが、各国の削減目標は中期的な目標でしかない。このままでは地球環境は大変な危機状態になると信じるM君は、CO2などの排出削減に時間がかかるのだから、大気中のCO2を回収する行動をすぐに始めるべきだと主張する。

 だが、各国は大気中のCO2回収などには動かない。排出権取引という金融市場は儲けのチャンスだし、EV普及などCO2排出削減のための産業構造の転換は膨大な新たな市場を創出するから、資本主義にとっては好都合だ。それに、各国でバラバラに大気中のCO2回収を始めると、「必要」以上に大気中のCO2を減少させる可能性がある。

 CO2などによる温室効果がなくなれば、人間など地球上で生きる生物は絶滅するかもしれない。気象庁HPでも、温室効果ガスによって「太陽からの光で暖められた地球の表面から地球の外に向かう赤外線の多くが、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻って」きて、戻ってきた赤外線が地球の表面付近の大気を暖めるが、「温室効果が無い場合の地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられていますが、温室効果のために現在の世界の平均気温はおよそ14℃」。氷点下19℃の地表で農作物は育たないだろう。

 CO2などによる温室効果をM君は「悪いもの」と理解しているようだが、温室効果は人間の生存にとって必要不可欠だ。世界各地でバラバラに大気中のCO2などの大量回収を始めたなら、大気中のCO2などが減りすぎて、寒冷化に向かいかねない。温暖化で想定される以上の被害を寒冷化は招くだろう。