望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

外交道具としての移民

 英仏海峡で2018年以降、フランスの海岸からゴムボートや小型船などで英国上陸を目指す移民が急増を続け、今年はすでに2万5千人以上になるという(英国の統計)。英仏海峡トンネルを通るトラックに潜む英国への密入国パンデミックによる入国規制で難しくなり、犯罪組織がボートによる密航請け負いを活発化させたとみられている。

 英国を目指す移民の多くはイラクなど中東出身者という。EUに入っても独仏ではなく英国を目指す移民は、▽英国内に親族や知人のつてがある▽英国では不法滞在でも職を得やすい▽言語の壁が低い(英語を話すことができる移民は珍しくないか)などで英国を選ぶ。

 英仏海峡で最も狭いのは仏カレーと英ドーバー間で約34km。ゴムボートや小型船などには多数が詰め込まれる。11月24日には英国を目指した1隻の小型ゴムボートの空気が抜け、乗っていた約50人の移民のうち子供を含む27人が死亡した。事故の後に英国はフランス側の取り締まりが緩いと批判し、フランスは密航を助ける犯罪組織の撲滅に向けてEU各国と連携するとした。

 報道によると英国はフランスに警備の資金拠出を申し出て、仏海岸を合同パトロールすることを提案していたそうだが、仏側が受け入れなかった。仏海岸での取り締まりを強化すると、英国を目指す移民をフランス国内にとどめることになり、フランス側の負担が大きくなるためか。移民を英仏が押し付け合うことが続き、27人が死ぬ惨事となった。

 11月には、EU入りを陸路で目指す移民が政治問題化した。ポーランド国境のベラルーシ側にイラクやシリアなどからの多数の移民が集まり、ポーランドは鉄条網でフェンスを作ったり、催涙ガスや放水などで移民の流入を阻止したが、移民は国境付近にとどまった。EUに「入れろ」「入れない」の攻防は10日間ほど続き、ベラルーシは移民を国境から退去させた。

 退去させた移民は約7千人。EUが2千人を受け入れ、5千人はベラルーシが母国に送り返すとの提案をドイツは拒否し、ベラルーシは移民をイランなどに航空機で送り返し始めた。この多数の移民は、ベラルーシEUに意図的に移民を流入させて圧力をかけるために集めたとの報道もあり、ベラルーシは移民を政治的な道具として使った疑いがある。なお、続報がないので一件落着したとみえる。

 英仏は移民を押し付け合い、ベラルーシは移民をEUに圧力をかける外交道具として使った。戦乱で中東各地から多数の移民が欧州を目指したが、各国はその扱いに困惑した。国境を押し破ろうとする人々に対して民主主義国といえども、その扱いは冷淡になる。戦乱の地にとどまって困窮する人々には同情するが、移民として押しかけて来られると拒否するというのが先進民主主義国の実態だ。