望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

名前の呼び方


 深夜の公園で、着ているものを脱いで(しかも、ちゃんと畳んで)、全裸になって騒いでいたタレントが、近所の住民の110番通報で駆けつけた赤坂署の警官に、公然猥褻の現行犯で逮捕されたのは09年。ぐでんぐでんに酔っぱらって、正気をなくしている酔っぱらいを警察は、普通は保護するはずだが、やはりタレントは特別扱いらしい。ついでに赤坂署は家宅捜査も行ったが、何も出て来なかったという。警察も、タレントの住居を見たかった?



 ところで、このタレントは韓国でも人気があるので、韓国でも速報されたという。韓国では「チョナン・カン」と呼ばれているという。日本で韓国スターのぺ・ヨンジュンは漢字では●勇俊(●は亠に裴)と書く。ハイユウシュンとでも呼ぶのかな。チェ・ジウは漢字では崔志宇。サイシウとでも呼ぶのかな。



 日本では韓国流の発音を受け入れているのに、韓国では日本の芸能人を韓国流の発音で呼ぶ。なぜか。一昔前の日本では中国、朝鮮半島の人々の名を日本流の発音で呼んでいた。今でも中国人の名前は日本流に呼ぶことが多いが、韓国人の名は韓国流に呼ぶことが多い。でも韓国では日本人の名を韓国流の発音で呼ぶ。相互主義でなかったの?



 韓国では漢字の追放が進み、ハングル表記だけの場合も多くなったという。韓国流の読み方を日本では、そのままカタカナにして表記しているが、韓国の民間レベルでは相互主義が浸透していないため、韓国流の発音が容認されているようだ。でも、何かの意図なり感情が潜んでいるとかも。



 韓国は漢字追放に熱心だが、弊害も出ている。それは、漢字の文章や漢字混じりの文章の読解力が若い世代で低下する形で現れた。韓国の古典文学や文献などを若い世代は、そのままでは読むことができなくなっているという。日本でも同じようなものかもしれない。仮名づかいが変化し、漢字の字体も簡略化されている。現代語訳なんてのが商売になるんだから。



 しかし、外国人の名を自国流で呼ぶということは面白そうでもある。日本でも昔は、外国の人名、地名などの固有名詞を漢字で表記していた。現代流に漢字表記すると、例えば、薔薇句・尾浜、悲拉李・久林豚、二個羅・猿故事、玲於奈留度・出過譜利尾、魔鈍名、魅津句・蛇画亜、酢屁巣・車戸留、笛裸亜里、歩琉紫衣など。



 なぜ日本では、漢字表記していた西洋の固有名詞が、20世紀にカタカナ表記に変わったのか。それは、日本における「知の受容形態」が変化したためだ。歴史的に日本は中国を通して「知」を受け入れていた。つまり漢字の文献で「知」を受容していた。江戸末期以降に西洋から直接「知」が入るようになっても、漢字に変換して受容するというスタイルが維持されたが、日本にはカタカナがあったので、次第に西洋の言葉をいちいち漢字に変換するという手間が省かれるようになった。



 日本には漢字、ひらがな、カタカナがあるが、韓国にはハングルと漢字しかなく、中国には漢字しかない。表音文字を持たない中国で、日本人の名を日本流に発音しにくいことは想像できるが、韓国のハングルでは日本流の発音をなぞることはそう難しくはないはずだ。