望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

髪の毛を食う

エントツ 「最近、階段の上り下りのときなんかに、ひざが痛むようになった。医者に行ったら、加齢現象だなんて言いやがる。わしに向かって、そんなこと言ったの、あんたが初めてだと言ってやったら、『これからは、ちょくちょく言われるようになりますよ』と笑っていやがる」



コッチャコ「立派に加齢なさって、ご老人の仲間入りですか。そういえば、ひざ痛にはコンドロイチンがいいという宣伝をどこかで見かけた。健康食品だったか医薬品だったか覚えてないが」



エントツ 「わしが聞いた話では、ひざ関節の軟骨が長い年月ですり減って、骨と骨が直接あたるようになるから痛みが出るということだった。本当に効くんだったら、試してみるか」



コッチャコ「飲めば直ると宣伝して売りつける類いのものが増えた。コンドロイチンが軟骨の成分だから、コンドロイチンを補えば軟骨が増えたり、修復できるという発想らしい。簡単な理屈だから、つい信じてみたくなる」



エントツ 「そんなことは、健康でどこにも悪いところがない人間の言うことだ。痛みがある時には、効くというものは何でも信じて、すがりたくなる。大した効果はないかもしれんが、効くと信じて飲めば気休めにはなりそうだ」



コッチャコ「そこが付け目なんだな。少しでも効果があればとか、飲まないよりは飲んでおいたほうがいいかもしれないなどという心理にさせて買わせる。直接的な効果をうたうと薬事法にひっかかる。だから宣伝では、ボカした表現にするんだが、そのアイマイさが、痛みなどで不安になっている消費者を誘うんだ」



エントツ 「ごちゃごちゃ言うが、要はコンドロイチンを飲んでも効かんと言いたいのか」



コッチャコ「それは分からん。効くかもしれないし、効かないかもしれん。宣伝でも『ひざの悪い人に勧めます』てなことで濁してる。ただ、口から飲んだものは胃に入って胃液で溶かされ、腸に移動して、そこで吸収される。腸で吸収されたコンドロイチンが、痛みがあるひざの軟骨に都合よく運ばれていくのか、そこのところの説明が見当たらない」



エントツ 「なるほど。『髪の毛を食えば髪の毛が生えて来る』なんて宣伝しても誰も信じないのに、『コンドロイチンを飲めば、ひざのコンドロイチンが増える』のほうは、そうかもと思ってしまう。うまい商売だな」



コッチャコ「そのうち、『髪の毛の主成分は@@だから、@@を飲めば髪の毛が増える』なんてものが登場するかもしれん」



エントツ 「ただな、痛みには勝てん。階段などで痛むたびに、なんとかしなくっちゃなと思うんだ。コンドロイチンが関節の軟骨の成分であることは明らかで、動物の軟骨や納豆、オクラ、山芋、根昆布、ウナギ、フカヒレ、スッポンなどの食品に含まれているそうだから、せめてコンドロイチン増量効果を信じて、そうした食品を心がけて食べることにするか」