望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

犬を喰らう

 朝鮮半島には犬肉食の文化があり、夏バテ対策の料理として受け継がれている。犬肉を煮込んだスープのほか、様々な部位の犬肉を使った多くの料理があり、北朝鮮平壌にも犬肉専門レストランがあるなど、「犬肉は体にいい」と信じられているという。

 韓国では、食用犬を飼育する犬牧場が約1万7000カ所あり、年に約200万頭が食用に供されていると報じられた。国際的な批判に取り合わず高齢者は犬肉食を愛好するが、若者は犬肉食を敬遠し始めているといい、ペットとして犬を飼う人が増えているためか、犬肉食を法律で禁止する運動が起きた。

 中国でも犬肉食の文化は受け継がれており、食用に年1000万頭が処理され、犬肉の生産量は年間9万7000トンという。広西チワン族自治区の玉林市で開催される「犬肉祭り」は世界的に知られている。国際的な批判に地元当局は、飲食店に「犬肉」の看板を出さないよう指導したそうだ。

 犬肉は中国でも夏バテ対策に効果があると信じられている。犬肉を食べると体内の熱が放出され、汗が出て暑さにもバテにくくなるとか、スタミナがつくそうだ。一方で、北京や上海など中国北部の犬肉食の習慣がない人たちや動物愛護運動の活動家などからの批判が国内で高まっている。

 日本でもかつては犬肉食があり、敗戦後の食糧難の頃に犬も食べられたというが、現在では一般的ではない。夏バテ対策には鰻がいいと信じられ、猛暑にも犬肉の出番はない。ペットの人気NO1の座は猫に譲ったが、犬はペットとして大人気だ。

 犬の体温は人間よりやや高く、体毛が密集しているので、暑さには強くない。犬には汗腺がなく、汗を出して体温を調節できないので、口を開けてベロを出して荒く息を続けることで、体温を下げようとする。

 犬は暑さに弱い。その肉が夏バテに効果があると韓国や中国などで信じられるようになったのは不思議だ。犬肉に特別な成分は含まれていないそうで、暑い夏に熱い犬肉スープなどを盛大に汗をかきながら食すると、体に刺激が与えられるということだろう。

 刺激は精神的なリフレッシュ効果をもたらし、犬肉が夏バテ対策にいいなどと信じ、それが文化的な伝統として受け継がれた。これは、コンドロイチンを食すると痛む膝に効果があるとか、コラーゲンを食すると肌にいいなどの健康食品会社の宣伝文と同類だ。「◯◯は効果がある」との信仰が広まり、市場が生まれる。