囲碁を打つ人なら分かるだろうが、互いの石が競り合っている状況なのに、見当違いのところに石を置く棋士がいる。テレビの囲碁対局番組でそんな場面を見て、あれっと思うが、解説者は、数十手先になれば役に立つ石だと言う。相手の棋士も、仕掛けられた“ワナ”に引っかからないように必死で先を読み、対応せざるを得なくなる。
日本の周囲は、波高しの状況だ。小さな島々を巡って互いに愛国ごっこを競っているが、愛国ごっこは熱くなりやすい。熱くなると目先のことしか見えなくなる。目先のことしか見ない外交は、現実の後追いになるしかないだろう。
日本の外交は、手持ちのカードが乏しい。日本が持っているのは「おれはアメリカと仲がいいんだぞ」カードと経済援助カードだけのように見える。後者は、以前ほど気前よく使えなくなった。前者のカードは多くの国が持っているので、切り札とはなり難い。日本は外交で手持ちのカードを増やす努力が必要だが、そんな姿勢は見受けられないようだ。数十手先を読んで、打つ手が日本外交には乏しい。
例えば、中国や韓国は日本に対して歴史問題カードを持っている。そのカードには有効期限がないらしく、都合良く日本に向けて差し出し、「反省しろ」と迫る。日本が反省したかどうかを決めるのは先方なので、いつまでたっても日本は反省を迫られる。便利なカードだ。日本も外交に便利なカードが必要だな。
ここは欧米に習うべきだ。欧米が都合よく使い、国際社会ウケがいいカードといえば、人権カードと民主主義カード。国際的に見るなら日本は欧米と同レベルで、民主主義や人権を尊重する国だといえる。大いに日本も人権カードや民主主義カードを外交で使うべし。欧米にも人権で完璧な国なんかないんだから、遠慮することはない。
中国に対しては人権カードや民主主義カードは活用できそうだ。中国から歴史問題カードを出されても、歴史問題は歴史問題として冷静に議論しようと言い、日本は“多大な迷惑をかけた”現在の中国の人々の人権状況や民主主義の実現に関心を持っていると切り返す。外交で主導的に問題設定を行って相手を巻き込むことができないなら、独自の外交なんてできない。
中国が尖閣諸島のことを持ち出すのなら、日本はチベットやウイグルの人権状況の改善を主張し、中国国内で迫害されている民主活動家の安全確保を要求する。尖閣諸島に中国が手を出すなら、ダライ・ラマ氏に日本の議会で演説する機会を与え、首相とダライ・ラマ氏の会談実現などが外交カードになり得る。将来を読んで、外交では様々な布石を打つべきだ。
韓国に対しては、北朝鮮カードが利きそうだ。拉致問題や核問題にとらわれずに北朝鮮を見れば、中国以上の低賃金労働者が溢れている。インフラ面や政治面などで課題は多いものの、北朝鮮と国交樹立すれば、日本の近くに有望な低賃金工業団地が開設できる可能性がある。いつでも日本は韓国に構ってくれ、謝ってくれると思わせるから韓国は増長する。北朝鮮との国交樹立も辞さずとのカードに韓国は怯えそうだが、このカードを使うには、日本国内での調整のほうが対韓国よりも難渋しそうだ。