望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり




実は生もの

 遠足やレジャーなどの携行食として、おにぎりは日本では身近な存在だ。コンビニでは定番商品で、手軽な昼食には欠かせない。都会には専門店もあって、オシャレに変身したりもする(厳選素材だとかで価格は高めだったりするが)。災害時には、おにぎりは被災者への非常食としても重宝される。



 身近な存在であるだけに、うっかりすると扱いを間違える。2012年の京都府宇治市の豪雨災害で、一時孤立した集落の住民が下痢や嘔吐などの食中毒症状を訴えた。市が配給したおにぎりが原因という。運ばれる前に約2時間、屋外で段ボールに入れた状態で保管されていたので、その時に、今回の食中毒の原因となった黄色ブドウ球菌が増殖した可能性が高い。



 今はシャケや明太子、ツナマヨなど多彩だが、おにぎりの具といえば昔は梅干しだった。梅干しには殺菌作用があるというから、先人の知恵なのだろう。衛生管理状態が良くなった現在、おにぎりは加工食品なみに大量に流通しているが、実際は生ものだ。綺麗に包装されたおにぎりはつい、加工食品と思い込みやすい。製造後も衛生管理に注意する必要がある。家庭でも素手で握ると細菌が付着する可能性があるとか。



 市販されている漬け物の浅漬けも、野菜は煮沸されず塩素などで洗うだけなので、生ものといえる。2012年に北海道で大規模なO157集団中毒事件があった。白菜の浅漬けが原因と見られている。子供も含めて7人もが死んだとあっては、徹底的に原因を解明し、再発を防止しなければなるまい。



 浅漬けによるO157食中毒は過去にも埼玉や福岡で起きているというが、再発防止が徹底されていれば、今回の被害は防ぐことができたかもしれない。厚労省は大量調理施設衛生管理マニュアルを示し、各地の行政が食品会社を指導していたそうだが、浅漬けによる食中毒は繰り返された。細菌が目に見えるものなら、消費者にも自衛策はあるのだろうが。



 食中毒を引き起こす細菌は多い。「ユッケ」のO111による集団食中毒や、「レバ刺し」のカンピロバクターによる食中毒事件はまだ記憶に新しい。共通しているのは、いずれも生ものだということ。おにぎりや浅漬けなど、生ものだとの意識が薄れる食品も店頭には多く、気をつけて管理する必要がありそうだ。



 ところで米では食中毒が大量発生している。年間の患者発生数は7600万人、うち入院患者は約32万人、死者は約5千人というから凄まじい。食中毒の原因は様々だが、最も患者数が多いのがノロウイルス。年間900万人以上の患者が発生している。次いで多いのがカンピロバクターで200万人弱。



 3番目に多いのがサルモネラ菌。菌がついた卵や食肉、野菜などにより発生、死亡者も多い。米では生卵を食べることはやめたほうがいい。また、O157による食中毒は、菌がついた肉を使ったハンバーガーやジュース、野菜などで発生することが多いそうだ。よく焼いていないミディアムレアのハンバーガーは怖いぞ。