節分に巻き寿司を食べることは大阪で生まれた風習とされるが、起源には諸説があって定説はないようだ。恵方を向いて巻き寿司を丸かじりすると願いがかなうと大手コンビニチェーンと電通などが仕掛けて21世紀に入ってから全国的に広まった。巻き寿司を丸かじりしただけで願いがかなうなら、人生に苦労はないな。
今ではマスメディアが節分の話題として恵方巻きを必ず取り上げ、歳時記的なネタとして定着した観がある。バレンタインデーに女性が男性にチョコレートを贈ることは1950年代から始まり、各社が積極的に仕掛けたことで全国的に定着したとされる。商業的な動機でPRされたものが、やがて習慣化したことは恵方巻きと共通する。
恵方巻きの起源の諸説は、古い順に①船場の旦那衆が花街でやっていた遊び(女性に太巻きをくわえさせて、旦那衆が見物)、②大阪のすし商組合が巻き寿司PRのため始めた(1930年代)、③大手のスーパーとコンビニ企業が全国展開PR(1990年代。大阪の海苔組合なども協力)。太巻きを女性にくわえさせた遊びが商業化されて、くわえやすい巻き寿司を主に売るようになり、さらには様々な具を使って味の種類を増やし、すっかり全国で馴染みのイベントと化した。
花街で行われていた御座敷遊びの一つが、企業の売り上げアップのために、性的行為を連想させる由来が消されて、恵方だの願いがかなうだのと改変された。恵方にも願いがかなうにも根拠は何もない。「そう言われている」との適当な由来を何度も企業PRやマスコミ報道で聞かされ、批判能力が希薄な人々は素直に従い、女も男も大人も子供も巻き寿司をくわえるようになった。
恵方巻きやバレンタインデーは企業にとって大成功だ。適当にでっち上げたストーリーで販売促進のチャンスをつくり、それが定例のイベントとして全国的に定着した。稼げる時に稼げと数多の企業はチャンスに乗ろうとし、マスコミは季節ネタが増えたと歓迎する。クリスマスにはホールケーキ、バレンタインデーにはチョコレート、節分には恵方巻きと、何かを食べることをイベント化する手法は企業にとっても美味しい。
いつでも食べることができる食品に、でっち上げでも何でもいいから特別な意味を持たせて販売促進に活用する手法はマネが簡単そうに見え、次の仕掛けを考える企業や団体がありそうだ。だが、@@の日などと特定の日と食品を結びつける試みは珍しくないが、広く知られているものはほとんどない。企業や広告代理店などが大量のPRで仕掛け、マスコミが無批判に季節ネタとして取り上げることが必要か。
節分に巻き寿司をくわえることに、人々は抵抗しない。古くからの習慣なら人々は科学的な根拠が皆無だとしても伝統として受け継ぐが、大量消費社会に生きる人々は、でっち上げの伝統でも何かを消費することが正当化される消費促進のイベントに無抵抗に見える。「日本全国酒呑み音頭」という歌があり、毎月何かを口実に酒が飲めるぞと歌っていた。酒でなくても何かを食べることが正当化されると人々は、それに乗る。