ストレス要因が多い都会で生活する人々の中には、豊かな自然に囲まれてマイペースで生きる田舎暮らしに対する憧れを持つ人がいる。鳥の声で目覚め、畑で野菜を育てたり、野山を散策したりしてすごすという暮らしは穏やかだろう。欲しいものがあればネットで注文すると宅配会社が配達してくれる時代になったので田舎暮らしに伴う不便さはほぼ消えた。
とはいえ、都会から田舎へ移住すると決心するのは簡単ではない。働かなくても生活に困らない資産があれば、田舎でも都会でも外国でも住みたい場所に住むこともできようが、会社勤めの人が田舎に移住することは退職を意味する。就業先があるか当座の蓄えがある人以外は、田舎への移住を決断することは難しいだろう。
だが新型コロナウイルスが企業にリモートワークを強制し、それで支障がないと判明した業務ではリモートワークが定着するだろう。そうなると、会社勤めを続けながら住居を田舎に移すことが可能になる。といっても都心などのオフィスに出社することもあろうから、山奥など交通の便が悪いところや、行き来に航空機を使用しなければならない遠隔地は選択肢から外されよう。
農山村で暮らすことだけが田舎暮らしではない。ビルに囲まれ、アスファルトに覆われた地面だけという都会暮らしに比べると、緑が豊かで住宅が点在するが高い建物がないので空が広い郊外での生活も田舎暮らしといえよう。そういう郊外は、都心から普通列車に1〜2時間も乗ると現れる。毎日の通勤を考えると遠すぎると見なされた土地が、リモートワークの勤め人で田舎暮らしに憧れる人にとっては有力な選択肢となろう。
そうした郊外に住む利点は、都市生活の利便性を手放さなくてもいいことだ。都会でのショッピングや観劇などを諦めずにすみ、都会に住む友人らとの交友も続けることができ、各種の病院へのアクセスも維持されるなど、それまでの都会暮らしの延長上に郊外での田舎暮らしがある。ただ、農村と違って住宅の横に畑があるとは限らない。
完全にリモートワークに移行したならば、インターネット接続がある山奥の農山村での田舎暮らしも可能となるが、同時に都会生活の利便性を諦めることにもなる。都会生活のストレスから逃れたいという動機で田舎暮らしに憧れる人には、緑豊かで静かな環境の良い場所が理想的で、郊外での田舎暮らしは「正解」ではないかもしれないが、田舎暮らしの体験版としての意味はある。
憧れていた農山村での田舎暮らしが、誰にとっても快適かどうかは分からない。住んでみて初めてわかる住みにくさもある。都市生活の利便性になれた人には、田舎暮らしの不便さがストレスになるかもしれない。都会と農山村の中間の生活環境として都市の郊外を見るならば、田舎暮らしの穏やかさと都市生活の利便性をほどよく混合させた生活環境だと分かる。