望潮亭通信

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戦時体制と国家権力

 米トランプ大統領は3月18日、「まず戦争に勝たなければいけない。私は戦時下の大統領」だと言い、朝鮮戦争下の1950年に成立した米国防生産法に基づき医療品メーカーに増産を求めた。同法は、国家安全保障に必要な製品の増産を民間企業に指示する権限を大統領に与える。

 同じ日、独メルケル首相は感染対策として人混みを避けるなど予防規則を守ることが重要だとし、国民に「戦時体制の結束」を呼び掛け、「第二次大戦以降で最大の困難に直面しており、結束した対応が非常に重要」だと協力を訴えた。同首相がテレビで国民に直接演説したことは初めてだという。

 自由行動の制限などは「民主主義社会で容易に発動されてはならず、暫定的でないといけないが、今は多くの命を救うために欠かせない」とした同首相は、感染拡大の抑制が急務だと強調した。フランスやイタリア、スペインなどと比べて厳格な規制ができないから、外出自粛などの協力を得るためには言葉を尽くして国民を説得しなければならない。

 仏マクロン大統領は3月16日、「戦争状態にある」とし、仏全土で人々の外出を制限し、違反者は処罰すると発表した。友人や親族らと集まることも禁止し、年金改革など全ての改革を棚上げ、統一地方選の2回目投票を延期した。また、シェンゲン協定を停止して国境を封鎖することも宣言した。

 同大統領は12日に、新型コロナの感染拡大は「衛生上の最重大事態」だとして外出を控えるよう呼びかけ、教育機関の閉鎖など人々の協力を求めたが、日曜日に公園で多数の人々が日光浴を楽しむなど外出自粛要請の効果は限定的だった。人々の協力が得られなければ感染拡大抑制は困難と、強制力の行使に踏み切った。

 戦時体制とは国家権力が強制力を露わにする体制で、人々や民間企業などの行動を統制し、一定の方向に向けさせる。日本やドイツなどは過去の歴史に伴う社会的制約から、非常時においても国家権力の強制力行使には制限が設けられているので、非常時には国民を説得して協力を得るしかない。

 国家権力が強制力を行使することが許される国における戦時体制はまた、民主主義がフリーズする体制であるが、民主主義が放棄されたわけではない。選挙で示された民意に基づく国家権力は、強制力を行使することの必要性を国民に納得させなければならない。やはり、言葉を尽くして国民を説得しなければならないことは同じだ。