国家の主権が、王侯貴族や特権階級、軍など限られた一部の人間にあるのではなく、広く人民にあるとする国家にふさわしい憲法は、第1章で主権在民を宣言する憲法であろう。ところが現行の日本国憲法は第1章が天皇の位置づけで、第1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」と主権について触れてはいるものの、ここでの主題は天皇となっている。
日本国憲法では前文で「主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と主権在民を宣言しているが、条文では第3章で「国民の権利及び義務」について記すものの、そこで主権在民を明確に規定してはいない。前文は条文と同等の拘束力を持つのだろうが、前文は様々な理念を羅列しているので、主権在民の理念だけが強調されているわけでもない。
欽定憲法である大日本帝国憲法では第1条で「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」と国家主権を天皇が有することを宣言している。主権在民である日本国憲法に改正されたというのに、大日本帝国憲法と同様に第1章が天皇に関する規定というのは、当時は時代的な制約もあったのであろうが、主権在民の憲法としてはふさわしくない。
主権在民にふさわしい憲法とは、第1条で主権在民を宣言する憲法だろう。例えば、第1章で「日本人の権利及び義務」を規定し、第1条で「われら日本人は、日本国の主権を有し、日本国を統治する」などとする。
もう少し具体的に記すなら、例えば「われら日本人は日本国の主権を有し、思想・表現・信仰などの自由を有し、個人の尊厳と社会的な統合・安定を尊重しつつ、社会的・経済的・政治的正義の実現を目指す」「われらの日本国は、独立した不可分の、非宗教的かつ民主的な共和国である。日本国の政治は日本人により、日本人のために行われる。日本国の政治は、日本人の厳粛な信託によるものであり、その権威は日本人に由来し、その権力は日本人の代表者が行使し、その福利は日本人が享受する」などとしてもよい。
主語を「われら日本人」とするのは、主権者である人民により制定された憲法であることを表しているのであり、憲法のすべての条文は「われら日本人」を主語として記されるべきであろう。