望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

荒れる日本海

 西高東低とは冬季の日本列島上の気圧配置を指す言葉で、日本から西方の大陸に高気圧があり、東方の太平洋に低気圧があって、天気図では間隔の狭い等圧線が縦に並ぶ。大陸の高気圧から吹き出した強い北西の風は、日本海で大量の水蒸気を供給され、日本列島に降雪をもたらす。西から東に移動する低気圧が日本海で急発達することも珍しくない。

 強い北西の季節風により、うねりや波が高くなり、冬季の日本海は荒れる。時化の日も多いが、ズワイガニやブリ、カレイ、ヒラメ、スルメイカ、マダラ漁など冬季にも日本海では漁業は行われている。今年も北朝鮮の木造船が大量に出漁しているらしい。

 冬季の荒れる日本海に出て行くのだから、頑丈な構造の船舶で強風や高波、寒気に対応できる備えが必須だ。だが、東北や北海道の日本海沿岸に漂着する北朝鮮の木造船は古い船体のようで、荒れる日本海での操業に適しているとは見えない。日本の沿岸の岩などにぶつかって解体する例も複数報じられ、構造もそう頑丈ではないようだ。

 日本海の「大和堆」と呼ばれる漁場では数百隻の北朝鮮の漁船が操業しているとも伝えられるが、母船を中心にした大規模な船団を構成しているのか、単独の木造船が密集しているだけなのか実態は詳らかではない。古い小さな木造船に見えるが、あれが北朝鮮では「主力」の漁船なのか、「使い捨て」の漁船なのかも不明だ。

 北朝鮮の木造船と乗員は、冬の荒れた日本海では過酷な状況の中で操業している。東北や北海道の日本海沿岸に木造船や遺体が漂着するが、日本海の洋上で転覆し、沈んだ木造船や遺体も多いと推察できる。だが、どれほどの木造船と乗員が日本海に沈んだのか実態は不明だ。

 北朝鮮では、金正恩委員長の指示で海産物の供給量を増やすことが至上命令になり、それで荒れる日本海でも出漁が促され、北朝鮮近海の漁業権を外貨獲得のために中国に売ったため、北朝鮮船は日本海の沖合に出なければならないと報じられている。危険を承知で出漁を強いられるのだとすれば、彼らは北朝鮮の現体制の犠牲者といえる。

 北朝鮮の現体制の犠牲者であろうと、勝手に日本の排他的経済水域で操業したり、日本の領海に侵入することは許されないのだが、独裁者に逆らえない(逆らわない)人々にとって、法を守ることの優先順位は低かろう。冬の荒れる日本海と同様に北朝鮮で生きることも過酷なのだと、漂着する木造船や遺体は示している。