望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

訪朝の成果と隠されたもの

 こんなコラムを2002年に書いていました。

 小泉首相の訪朝の成果は、▽拉致事件の存在を認めさせて謝罪を引きだし、安否情報を入手した▽不審船について北朝鮮の関与を認めさせた▽ミサイル発射実験の凍結、核開発について国際的合意の順守を宣言に明記させたーなど。北朝鮮から見た成果は、▽国交正常化交渉再開の道筋を付けた▽植民地支配に対する日本の謝罪を明記させた▽「補償」を経済協力方式で実施することを明記させたーなど。

 一方、“失点”としては小泉にとっては、▽8人死亡が日本社会に大きな衝撃を与えた▽情報操作など外務省批判の高まりーなど。北朝鮮にとっては、▽拉致などを認めたことによりテロ国家とのイメージをより高めた▽日本国内での反発の高まりーなどだ。

 アメリカから見た場合、▽北朝鮮のミサイル発射実験凍結の明記▽北朝鮮の核開発の国際的合意順守の明記▽日本の金で北朝鮮援助が行われ、北東アジアが緊張緩和へ動くーなどが好都合と受け止められるだろう。

 中国から見た場合、▽北朝鮮の経済立て直しを日本の金で行えるーこれに尽きるだろう。北朝鮮からの密入国者を数万、数十万抱えているといわれる中国は、経済発展の一方で国内での経済格差が大きくなり、北朝鮮援助に回せる資金はないので、日本の金で北朝鮮が持ち直すのなら、どんどんおやりなさい、ということだろう。

 ロシアにとっては、北朝鮮が崩壊しても経済援助が出来るはずもなく、また難民がロシアに向かう可能性も小さいが、北朝鮮崩壊後の朝鮮半島は韓国に統一される可能性が大きく、そうなるとロシアの政治的影響力はほとんど無くなる。そのため、日本の金で北朝鮮が存続するのなら、大喜びだろう。

 今回の小泉訪朝の隠された大きな意味は、北朝鮮の独裁体制の存続を日米が認めたということである。独裁国家で核や生物・化学兵器の開発疑惑があるということではイラク北朝鮮は同列である。イラクへのアメリカの攻撃が容認されるなら、北朝鮮への攻撃も可能となる。違いは二つで、①北朝鮮では石油が出ず、②サダム・フセインに会いに行く西側首脳がいない。

 大量の餓死者を出し、多くの亡命者・亡命予備者を出し、経済が破綻した北朝鮮は今のままでは崩壊する。東ドイツなどのような形で韓国に吸収されるなら問題はその後の経済支援だけだが、温存されている軍部が北朝鮮崩壊の時にどう動くかが不安定要素となる。そのため日韓は当面、金正日独裁の北朝鮮の存続を認めることにした。アメリカにとって北朝鮮の崩壊は望ましいだろうが、そのために、中国はともかく日韓に大きな政治的・経済的負担がかかることを考慮し、北朝鮮の存続を認めることにした。