横町の御隠居のところに熊公が跳びこんで来て、話は始まります(2009年の噺)。
「てえへんだ、能登の国では天からオタマジャクシが降ってきやがったそうだ」
御隠居はあわてず、「ずいぶん変わったものが降ったものだね」。
「あれ、落ち着いてやがら。オタマジャクシですよ、オタマジャクシ。ヒョウやアラレじゃなくて、シッポが生えて、池なんかに湧いて出るオタマジャクシが、天から降って来たっていうのに、驚きもしねえ。何ですかね、御隠居は長く生きてるから、以前にオタマジャクシが降るところを見たことがあるんですかい?」
「見たことはないがね」と御隠居、続けて「どうせ、誰かのイタズラに決まってる」。
「そうですかね? 年寄りってのは夢がなくなって、つまらねえ。天からオタマジャクシが降るって思うと、何だかドキドキするじゃねえですか。この気持ち、分からねえですかねえ」
「いいことを教えてあげようか」と御隠居、熊公がうなづくと、「待っててごらん、そのうち成長して、カエルが天から降って来るよ」。
「……オタマジャクシはカエルの子でナマズの孫ではないっていいますからね。いいでしょう、待ってやらあ。ところで皆は、鳥が、食ったオタマジャクシを吐き出したんじゃねえかなんて言ってるようですがね、今年に限って鳥が吐き出すってのが気に食わねえ」
御隠居は「鳥にだって事情があるだろうよ。地球温暖化など、鳥だって最近は大変なんだよ」と言って、「おまけに今年は北朝鮮の飛翔体が日本海の上をぶっ飛んだんだから、鳥だってビックリして、いつもと違ったことをやりかねないってものさ」。
「飛翔体にオタマジャクシを積んでいたんじゃねえですかい? 日本の上でロケットの分離に失敗した時に一部が壊れて、積んでたオタマジャクシが放り出されて、ゆらゆらと時間がかかって地表に落ちて来たのが最近だって考えられませんかね」
なるほどと御隠居、「いや、これは北朝鮮からのメッセージかもしれませんよ」。怪訝な顔をした熊公に御隠居は、「オタマジャクシは死んでいた。国際的な制裁が強化されたんで、もう手も足も出ませんって伝えたいのかも」。
「……オタマジャクシってのは、手と足、どっちが先に出るんでしたっけね」
「種類によって違うんだよ」と御隠居、「金持ちのカエルの家では手が先で、貧乏人のカエルの家では足が先だな」。
「そんな話、聞いたことがねえや。だいいちカエルに金持ちも貧乏人もねえんじゃないですかい」
恥ずかしそうに御隠居、「貧乏人は、御足がすぐ出る……」