望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

世界各地でデモ

 香港で続いているデモは逃亡犯条例の改正案に反対するものとして始まり、「五大要求」を掲げる抗議活動に発展した。五大要求は▽逃亡犯条例改正案の正式撤回▽抗議行動の「暴動」認定の取り消し▽逮捕されたデモ参加者全員への恩赦▽警察の暴力に関する独立調査委員会の設置▽直接選挙の実現。逃亡犯条例改正案は正式に撤回されたが、他の要求は実現していない。

 イラクでは10月に始まった反政府デモと治安部隊の衝突で300人以上の死者が出ている(負傷者は6000人以上)。ISの勢力が衰え治安が改善して平和になったものの、各種インフラの復旧は進まず、生活は楽にならず、物価は上がり、汚職や腐敗が蔓延し、武装グループは各地に存在している。

 一連のデモの背後には特定の宗派や政党はおらず、指導者もいないという。失業や生活苦、政権の腐敗などに抗議する運動としてデモが始まり、各地に広がった。首都ベイルートでは数十万人規模となったが、政府に批判的だったスンニ派住民だけでなく、シーア派住民も数多く参加し、批判はイラク政府に影響力を行使するイランにも向けられているという。

 レバノンでは、無料だった通信アプリに課税する政府発表に若者が反発、反政府デモに発展した。経済の低迷が続くレバノンで若者は失業や汚職に不満を持ち、政府や統治制度の抜本的な改革を求めているという。数十万人規模になったデモ隊は治安部隊と衝突した。デモ隊は、レバノンで多大な影響力を有するヒズボラに対する批判も隠さないという。デモに指導者がいないことはイラクのデモと共通する。

 レバノンは国政選挙で宗教・宗派ごとに議席を割りあて、大統領はキリスト教徒、首相はスンニ派、国会議長はシーア派と決まっていて、宗教や宗派のバランスを固定している。膠着状態が固定された政治と低迷する経済の中で、ヒズボラが社会に大きな影響力を持つとともに、各種の利権を握るという。

 チリでは、地下鉄運賃引き上げへの抗議として始まったデモが拡大、生活費の高騰や経済的な不平等などに対する是正を求め、約100万人が参加するなどチリ史上で最大規模のデモに発展した。一部が過激化し、治安部隊と衝突、駅やビル、警察署などが燃やされたりし、首都には非常事態宣言が出された。死者は20人を超すという。

 デモ隊に退陣を要求されたチリのピニェラ大統領は、地下鉄運賃の値上げ撤回や内閣の一新、独裁政権時に制定された憲法の改正草案の作成などを発表した。チリは南米で最も安定した富裕国とみなされていたが、非正規雇用が多く賃金格差が大きいなど、人々が抱える不満は高まっていて、改革を求める機運が高まっていたのだろう。

 世界の多くの国で人々が抗議運動に参加している。共通するのは①主導的な集団や指導者が不在、②SNSで情報を共有、③若者らがまず動き始める、④一部が過激化。自然発生的に抗議運動が始まり、やがて様々な要求・不満を取り込んで参加者が拡大していると見える。だが、大きな相違点もある。香港のデモの本質は人々が主権を求める行動だが、他国のデモは主権者である人々が様々な改革を要求する意思表示だ。