望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

普通選挙を求める人々

 香港には議会である立法会(定数70)があり、首相に相当する香港行政長官がいて、ともに選挙で選ばれる。だが、直接選挙で選出される議員は立法会の議員の半数だけであり、当選した議員も反中国的な言動で議員資格を剥奪されたりするので、親中国派の議員が大部分となっている。

 行政長官は、定数1200人の選挙委員会の投票で選ばれる。立候補するには100人以上の選挙委員会の委員の推薦が必要で、委員は事実上、親中国派のみがなるので、行政長官には親中国派か中国に逆らわない人物のみしか選ばれない。

 中国への返還後、香港の多くの人々が行政長官や立法会の議員を普通選挙で選びたいと運動してきた。香港が植民地であった頃は長い間、民主主義は存在しなかったが、中国への返還の2年前に英国は香港の議会の民選化を行った。それを返還後に中国は制限した。

 植民地を放棄するときに、争いのタネをまいて去るのが英国だ。普通選挙により構成される議会は民主主義の要だが、中国のような1党独裁国家において、自由な普通選挙による議会は排除される。英国は、香港を中国に返還する間際に香港の人々に普通選挙を「プレゼント」し、民主主義の擁護者を装う。

 香港の人々は普通選挙を、与えられるのではなく、自らの手で掴もうと運動を続けている。英国は高みの見物だが、中国は香港に普通選挙を許すことはできない。香港は中国の一部だという主張なのだから、香港に普通選挙を許せば中国全土でも普通選挙を要求する動きが高まる。

 中国の1党独裁は民意を統制・抑圧することで成り立っている。体制への翼賛しか許さない社会では、体制を賛美するか体制に従順になることだけが民意とされる。だが、普通選挙を要求するという民意が香港で示され続け、中国は香港の民意を統制・抑圧できていない。

 民意が行政には反映されていない社会に、人々が我慢できなくなって街頭に出て意思表示を始めた。香港の主権を有するのは香港人だと人々は主張し、香港の主権を有するのは中国政府だと中国は主張する。しかし、中国は香港の人々を説得する言葉を持たず、強権による抑圧しか方策がないように見える。中国も、追い込まれている。