望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

演歌の定義

 全8巻からなる企画CD「昭和の演歌」には、「これも演歌なの? 違うだろ」と言いたくなる曲がけっこう含まれている。例えば、「愛と死をみつめて」「赤いグラス」「ラブユー東京」「夜霧よ今夜も有り難う」「君こそわが命」「ブルーライト・ヨコハマ」「瀬戸の花嫁」「別れても好きな人」「愛の水中花」「ラブ・イズ・オーヴァー」「俺さ東京さ行ぐだ」「時の流れに身を任せ」など。

 演歌のヒット曲を持つ歌手が歌ったものは全て演歌とみなしたと解釈しても、歌謡ポップス歌手の歌謡ポップス作品など演歌ぽくない曲が含まれている。多くのレーベルから曲を提供してもらうために、偏らないように各社で曲数のバランスをとる必要など“大人の事情”があったのかもしれないな。

 歌詞を丁寧に歌い上げ、時にはコブシを回すなど演歌ぽい歌い方はあるし、恋や別れの情感、追憶など男女関係をメーンとする歌詞でも演歌ぽい世界がある。理屈っぽく語ったり内省するのは演歌には似合わないし、ラップ調も演歌に似合わない。酒や旅、地方都市、ご当地ブルース、雨、涙、夜、港、北国、酒場、雪などを散りばめて男女の情感を歌うのが演歌か。

 演歌の定義を探すと、例えば、「小節をきかせた浪曲風メロディーで二拍子、短調の曲が多く、義理人情を歌う」とか「〈ヨナ抜き音階〉により〈こぶし〉をきかせて歌う歌謡曲」「こぶしのきいた日本調の歌謡曲」「伝統的な民謡に聞こえるものからフォーク色が強いもの、分類不能のものまで作風は様々」などがある。

 音楽的にはヨナ抜き(4度と7度の音を使わない)で作曲するものと言えそうだが、ヨナ抜きは演歌の独占物ではないからヨナ抜きだけで演歌を定義するわけにはいかない。聞いた印象で演歌だと判断するしかないとすれば、演歌の定義には個人差が生じる。

 他の音楽との境界がぼやけているのは演歌に限らない。というより、時代の変化や流行の影響を強く受けたり、諸外国の多様な音楽の影響を受けやすいのが音楽だ。例えば、かつて演歌に任侠ものが珍しくなかったが、社会からのヤクザ排斥が強まった現在、演歌の世界から任侠ものは姿を消した。

 J-POPが全盛の一方で演歌は衰退の一途に見える。リズムやノリが重視される時代に、じっくり聴かせ、情緒を重視する演歌の居場所は狭まっているようだ。だが、J-POP全盛だから演歌に新しい定義が追加された。それは①口パクをせず自分で歌う、②ダンスをしない、③ユニット化しない。